第26話 サンタクロースがやってくる
「は?」
「ビッグボスって誰ですか? それはパークの上司?」
「いやいや」
——この先生は何を言ってるんだ?
ビッグボスって誰って……ビッグボスはビッグボスだろ。ビッグボスを知らないなんてことがある訳ないだろ。医務室に出入りした話も聞いたことがある。先生もビッグボスを知っているはずだ。
「ほら、ビッグボスですよ。あの仕事熱心で、あの人がいないとパークが回らないくらいの……。ほら、スマホの画面がずっと割れてて、機種変更する時間もないくらい働いてる……あのビッグボスですよ……!」
「私は知らないなぁ。タテノくんと同じエリアの人ですか?」
また視界がぐにゃりと曲がるような感覚に陥る。夢だ。夢に違いない。でなければ、ふざけているのだ。そうか、お笑いが好きだと言っていたな。これはドッキリなのか? こんな一般人に大がかりなドッキリを仕掛けて何がしたいんだ。
「……ちょっと失礼します」
「あ、ちょっと……!」
僕はたまらなくなって先生の静止も振り切って医務室を飛び出した。ビッグボス、どこにいるんですか。先生が、あなたのことを知らないなんて言うんですよ。一緒に怒ってやりましょう。
◆◆◆
「はぁはぁ……」
僕はダンサーさん達の休憩室の前へと立っていた。ビッグボスはよくここに入って、ダンサーさん達と話したりしている。ここにくればもしかしたら……。
ガチャリ
「ほうほーう。タテノくんじゃないか、メリークリスマース!」
——良かった……
以前のようにゾンビさんが僕を迎えてくれる。変わらずサンタになりきっているゾンビさんを見て心が落ち着いていくのがわかる。
「あれ、タテノじゃん。珍しいね!」
「あ、お疲れ様です」
ダンサーのココロさんが話しかけてくる。見回してみるが、他に知った顔はおらず、ビッグボスも来ていないようだった。キョロキョロしている僕の視界にサンタ姿のゾンビさんが映り込んでくる。
「ほうほーう、メリークリスマース!」
「え?」
「ほら、タテノが挨拶返さないからゾンビさんが真っ赤なお鼻のトナカイさん状態だぞ」
「あ、すいません。メリークリスマス!」
「ほうほーう」
「ゾンビさーん! 俺、いい子なんだけどプレゼントくれますかー!」
「ほうほーう。良い子にはプレゼントだほーう」
「やったぁ! ほれタテノにもやるよ」
ココロさんはそう言うと僕にも飴玉をプレゼントしてくれた。飴玉の包装紙にシャクレ達の顔がプリントされているような気がしたが、見て見ぬふりをした。
「あれ、今日はハナさんはいないんですか?」
僕が口の中で飴玉を転がしながら質問する。すると、2人は呆れたような顔で僕の方を見てくる。
「ハナさん……?」
「真っ赤なおハナさん……?」
「え……?」
休憩室に変な空気が流れる。僕がポカンとしていると、ココロさんが近づいてきてこう話すのだった。
「何言ってんだ、タテノ。ハナさんなら辞めちゃっただろうが」
「メリー悲しみマース」
「え?!」
ハナさんが辞めた?! そんなバカな、ハナさんがダンサーを辞めてるわけがない。この前だってここで……。
「いや、辞めたのはカッピーさんでハナさんは残ってたじゃないですか。ほら、この前もここでゾンビさんとふざけ合ってたし……」
「だからそのカッピーと2人で問題起こして辞めただろうが! その話はその時散々しただろ!」
「メリー話し合いシマシタ」
「ゾンビさん、それもはや何にもクリスマスにかかってないです」
「ほうほーう」
ふざけるゾンビさんを見ても僕はちっとも笑えずにいた。一体何がどうなっているんだ。おかしなことだらけの世界になってしまった。ハナさんが辞めている? ビッグボスの安否を確認しにきただけだったのに、また新たな問題が出てきてしまった。僕はおかしくなってしまいそうだった。もはやおかしくなったのが世界なのか、僕なのかもわからないほどになっていた。考えすぎて痛くなってきた頭を押さえながら僕は2人に質問をした。
「ちなみにお二人はビッグボスって名前に心当たりありますか? なんでもいいです。記憶の片隅にでもないですか?」
「ビッグボス……? 知らねぇなぁ、ゾンビさんわかります?」
「メリー知らないマース!」




