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第25話 Mental Health

——天井だ……


 目が覚めると白い天井があった。


「お、目が覚めましたね。大丈夫ですか?」


「あ、はい。大丈夫です……」


 どうやら医務室に運ばれてきたらしかった。医務室の先生が僕のおでこに手を当てて、熱を測ってくる。


「どうやら熱はなさそうですが……」


「すいません、なんか……混乱しちゃって」


「混乱……というのは?」


「実は……」


「……?」


 僕は少し言いかけたところで、なんて言えばいいのかわからずに考え込んでしまった。あるがままに話して先生がわかってくれるのか。


「いいんですよ、まとまってなくても」


「え?」


 先生が心配そうに僕の様子を覗き込んで話す。僕がどんなことを考えているのか見透かすような顔だった。


「私専門の人ほどではないですが、カウンセリングの心得もあります。病は気からなんて古くから言いますし、心に何かモヤモヤがあるのでしたら、吐き出すだけでも楽になったりしますよ?」


◆◆◆


 僕はありのままを話した。不人気インフルエンサーのはずの“愛の爆弾チャンネル”がいつの間にか大人気になっていたこと、謎の奇妙な挨拶がパーク内で流行っていること、シャクレザライドやシャクレエリア等の謎の建造物がパーク内に違法に建築されていること。思いつくままにまとまりのないまま、先生に吐き出してみた。


「シャクラーなんて言葉ある訳ないんです。シャクレのファンなんて……」


「なるほど、なるほど」


「昨日までは全然人気がなかったはずなのに、今日から世界が変わったみたいに……」


「なるほど」


 先生はうんうん、と言いながら頷いていた。時折、手元のクリップボードに何かを書き込みながら僕の話をゆっくりと聞いてくれた。そして、ひとしきり僕の話を聞いた後に一言言うのだった。


「わかります」


「え? わかってくれますか?」


 良かった。シャクレ率いる“愛の爆弾チャンネル”が人気というおかしさに気づいているのは僕だけじゃなかったのだ。


「私、お笑いが好きで」


「え?」


「ええ、お笑いが好きで、よく劇場などに足を運ぶんですが」


 意外だった。医務室の先生がお笑いが好き? 普段何をしているのか全くわからないこの先生が、よく劇場に足を運ぶ? テレビで見るだけにとどまらず、劇場に足を運ぶとなると相当のお笑い好きだ。笑うのか? この先生、お笑いを見る時は笑うのか? 笑っているイメージが全くないのだけど。


「ちょっと仕事が忙しくて、劇場に足を運べていない間に、いつの間にか大人気になっている……というのはよくあることです。え、あのコンビが劇場に出られない程忙しくなってるの? とかね」


「は、はあ……」


「人気……なんてものは水物ですから、昨日まで人気がなかった人が一夜にして……なんてことは芸能の世界ではよくあることなんではないでしょうか」


——違う……


 僕は先生の話を聞きながら、首を振っていた。違うんだ、そういうことじゃない。本当に違ったんだ、シャクレの“愛の爆弾”なんて本当に全然人気がなくて……、あいつらの仲間のリュウなんて迷惑行為をする迷惑者だったんだ。それが一夜にして人気になるなんて言うレベルじゃないほど人気者になっているんだ。


「すいません。私も専門ではないので、良かったら知り合いのカウンセラーを紹介しましょうか?」


「いや、いいです」


「……そうですか。とりあえず今日はお休みにしたらどうですか? 上司の方には私から適当に伝えておきますよ」


「……」


「そんな難しい顔しないで。気分転換に何かしてくればどうですか? 趣味はありますか? 恋人や友人と遊ぶのもいいですよ。何か他のことをしていれば、自分が気にしてたことなんて案外どうでもいいことだったんだなんて思えてくるものですよ」


「そうですね……ありがとうございます」


「私で良かったらいつでも話聞きますから」


「……」


「私だと話しづらいのであれば、信頼できる上司に話してみるのも選択肢の内ですよ」


 僕がおかしいのか? 僕が気づいていなかっただけで“愛の爆弾”は人気インフルエンサーだったのか? テレビに出て、テーマパークとコラボして、エリアになるまでの人気があったというのか?


「信頼できる上司……。そうですね、ビッグボスにも話してみようかな」


しん……


 その瞬間、医務室が静まり返ったのがわかった。嫌な汗がじとりと頬を伝う。何か嫌な予感がする。胸がざわざわとざわめく。きょとん……とした顔をした先生が僕に言うのだった。


「ビッグボス? 誰ですか、それは?」

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