表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

第19話 軍の進撃



 そして悪の秘密結社の地上部分が廃墟になった頃、やっと平和ボケした市民から通報が来た軍は慌てふためいていた。

 魔物の脅威も人の記憶から薄れ始め、そして人類の敵たる【5大悪】も実際には被害がそれほど多くはなく仮初の平和を謳歌してきた一般人。5大悪など呼ばれたところで、大した活動ができるわけでもなし。心の準備などできていなかった。

 

 だが、今や窓を開ければ破壊の音が聞こえてくる。耳の良いものならば悲鳴と断末魔さえも聞き取れることだろう。

 彼らはようやく明日には誰が死んでいてもおかしくない本物の恐怖を思い出していた。

 こういう時のための軍隊で、これで役立たずならばなんのために重税を払っているのかということになる。なんとかしなければ怒りは軍に向かうだろう。

 上から下へ火事のごとく大騒ぎしながらも、「ちゃんとやってますよ」とのポーズくらいは取らなければ上層部の首が飛ぶ。


 そんな時に、基地の一角では呑気な声が響いていた。暴力を日常とするがゆえ、平和を捨て去った者は慌てない。

 慌てたところで、それは仕事してますアピールに他ならない。やるのはやってるふりのアピールではなく、実際の仕事でなければ意味がないから。


「へ、隊長――表は大騒ぎですけどどうすんです? 軍は面目丸つぶれでしょうな」

「でも、魔法少女はうちらの担当でしょう? ま、うちに責任とか言われてもねえ。存在しないはずの部隊に責任を押し付けるこたあ出来んと思いますがね」

「ただ、【アルテミス】の件があるでしょう。あれはうちで確保しておかないと」


 ケルベロス部隊の駐屯地では、隊員がそれぞれに好き勝手なことを言っていた。彼らは装備の整備がてら詰め所に詰めていた。

 いかなる時も臨戦態勢。それが秘密部隊である彼らの役割。とにかく外見だけでも整えてみせかけだけでも進軍をでっちあげようと言う表の部隊とは違う殺し合いに生きる職業軍人は気楽に見えて冷徹だ。


「おい、お前ら。好き勝手言ってんなよ。突然の仕事で愚痴るのも分かるが、これもてめえらが選んだ仕事だろうが。戸籍も抹消した俺らにゃ、今更ここを辞めることだってできねえんだぜ?」


 中々にエグいことを言っているが、雰囲気はあくまで和やかだ。彼らなりの日常の中に暴力が溶け込んでいる。

 仮に、侵入者が居たら笑顔のまま軽口とともに葬り去るだろう。煮詰まった暴力の気配、死を日常とする凶者ども。


「はっはっは、そりゃそうだ」

「まったく、特殊部隊ってのも楽なもんじゃねえ。シャバに恋人の一人も作れないなんてな」


「――はん、てめえらどうせ女なんかそこらへんで済ませてんだろうに。貰うもんはきちんと貰ってんだぜ。そして俺らにゃ今更こいつは手放せねえ……結婚だのガキだのいった未来は捨ててたんだろが」


 くはは、と笑う。魔法少女の守りを突破できる特殊な武器、そして彼らにはそれを十全に扱えるように人体改造さえ施されている。実のところ、彼ら自身が魔法少女より高価な最新兵器と言える。

 兵器であるからには管理対象、表の世界に帰ることなどできないのだ。


「違いねえ」

「ああ、そうだ。違いねえ」


 狂ったように笑い合う。


「この地獄にしか生きる場所がねえイカレにゃ、ケルベロスの称号が相応しい。さあ、行くぜテメエラ。ガキの形をした化け物どもをぶっ殺しに行こう。今日はなんと【5大悪】の一つ【境界大学】の本拠地だ。今日は人間の形をした人間モドキだって殺せるぜ」


 笑いのさざめきが広がっていく。各々が装備を片手に立ち上がる。魔法少女にはそれぞれの魔法の特性で相性の良い武器というのがある、彼らは多種の武器に精通したエキスパートでもあるのだ。


「そりゃついてる」

「ああ、中国人は人間じゃねえからな」


 銃、剣、そしてバックパックには幾多の武器。今回は潜入任務、長時間の戦闘になるから装備も増える。

 一人一人が一つの基地を落とせるだけの鉄火を準備した。


「出撃だ、ついてこい」


 ケルベロス部隊が出撃した。




 そして彼らが到着すると、そこはクルミがローズを殺す場面だった。ローズの頭が砲撃によって爆散するのを何の感情も映らない瞳で見届けた。


「――」


 クルミは彼らをチラと見て、しかし何も興味を抱かずに更なる砲撃の準備を始め……


「我ら【境界大学】を舐めるなよ、人間の男に拾われただけの魔法少女が! あのローズなどしょせんは数合わせのクズ! 出力だけが一人前の役立たずだ! だが――貴様の隙を突く役には立ったな!」

「……え!?」


 ローズとは違う女の声がした。そして、倒れ伏す彼女の影が暴発するように広がった。頭を吹き飛ばされた彼女が生きているはずがない……つまり新手。

 止めを刺して安心したその一瞬を狙われた。共に戦うと言う発想がない、急造ゆえに手柄を独り占めしようとしたのかもしれないが。しかし、効果的だった。


「さあ、我が影の魔法『シャドウ・ディストピア』に飲まれて散華せよ!」

「く――ああ!」


 クルミが影に飲み込まれ、消えた。


 横で見ていた隊員が一言。


「ε―33の捕獲命令は撤回されていませんが、どうします? 追いかけるのはちと面倒ですね。殺すなら簡単でしたけど」

「上の連中はどうせあいつなんざ忘れてる。放っておけよ、やつが生きていようが死んでいようがどうでもいい。それとも獲物はきっちり仕留めねえと安心できねえクチか? 撃とうと思えば撃てただろ」


「いえいえ、隊長。ここは一応聞いておいた方が良いかと。生命反応が地下まで下って行ってる。おそらく、罠のところまで落として殺すつもりでしょうから。死体を探すのも手間なもんで」

「いや、分からねえぜ。案外罠ごとぶっ潰しちまったりしてな。だが、そっちにゃ目的のブツはねえことは分かり切ってる。そっちに付き合う暇はない」


「そりゃ、罠と重要なデータを一緒の区画にまとめる馬鹿はいやしませんぜ。よくあるRPGじゃあるまいし――道案内を期待するほうが馬鹿ってもんでしょ」

「うっせえよ、だから見逃したんだろうが。てめえら真面目に仕事しやがれ。蜂の巣を突ついたようなこの騒ぎから目的のブツを探し出すんだよ。ああ、それと目についたやつは全員殺せ」


 皆殺し、となんの配慮もなく言い切った。ケルベロスは存在しない部隊、見られただけでも殺す理由になる。


「「――了解」」


 隊員たちが進んで行く。昼間だろうと音もなく動く彼らを見つけるのは尋常なことではない。

 まるで一つの生物のように有機的に連携し、そして複数の目と頭で敵を見つけ――


「……左に魔法少女を確認。先制攻撃開始――沈黙」

「10m先に魔法少女。気付かれてない、撃ちます――沈黙」


 殺し、進む。すでに境界大学はDクラス、元のクルミクラスの魔法少女すら枯渇している。さらにこの施設そのものが崩れ落ちようとしているこの時、まともに外の見張りをする余裕もなかった。

 そして、彼らは炎上する工場を恐れず探っていく。死体の数が多いめぼしい建物を一つ、二つ目と……三つ目で見つかった。


「下につながる扉を確認しました」

「よし、まずはグレネードを投下。安全を確保して進め」

「了解」

 

 てきぱきと下を掃除し、ついに施設の本命へ潜入した。ただの工場だった場所が地下に行けばそこは意外。SFじみた白い壁が広がっている。

 むしろ病院を思い起こすような、白化粧の壁と床。ただし投下したグレネードにより煤がこびりついている。おあつらえむきとはこういことを言うのか。


「――なるほど。これがケルベロス部隊か。ただの魔法少女では相手にならぬわけだ」


 放送が、聞こえてきた。


「チ、さすがにやっこさんの家だな。どこから話してやがる?」

「教えると思うか? だが、冥途の土産に我が名を教えておこう。私はネイビイの色を与えられし魔法少女である。ああ、さすがに地上には居ないから爆撃しても無駄だとも言っておこう」


 声の主はこの有利な状況に嗜虐心を隠さない。本拠地で迎撃するということはこういうことだ。自分の城すら把握していない馬鹿はよく居るが、彼女は違う。

 罠に入り込んだ獲物が逆転する余地など残さない。生け捕りなど許さない。必ず殺すという怜悧な意思。


「使えるかよ。ここは市街地の近くなんだぜ? 清廉潔白な日米同盟軍は日本の罪なき市民に犠牲が出るかもしれない作戦は取らねえよ」

「ははは。しかし、実際にはここには日本人も居たぞ。もちろん魔法少女のことではない。騙されて働いているだけの何も知らないかわいそうな工場の従業員達のことを言っている。今頃は火に撒かれ、窒息するか焼死しただろう。彼らのことを助けてやれなかったのか?」


「どうせ不法移民だろ? もしくは闇で生まれたガキだ。魔法少女は知らないかな、人権をもってなけりゃ人間じゃねえんだぜ」

「くははは。なるほど、道理だ。まあ、魔法少女の私が同情できたようなことでもないか。なんせ、君によれば私も人間ではないらしいしな」


「ま、そうだな。人体実験の被験者どもをケツに火が付いて使わざるを得なくなっただけの、哀れな被害者ごときが。地獄の番犬に爪を立てられると思うなよ、凡百」

「威勢が良い。だが、これを見てもまだ言ってられるかな!?」


 ざざざ、と足音が聞こえてくる。だが、それは妙に軽い。……まるで、綿のような。そしてかすかに聞こえる金属音、ハサミの音。


「っなんだ、こいつら……! クマの……ぬいぐるみだとォ!」

「そう、これぞ我が魔法『シザーズ・ベア』。貴様らは既に袋のネズミ! それとも、逃げ帰るかね? それだけが貴様たちの唯一の生存につながる道だが」


 じゃこ、と音がする。扉が閉まった。しかも、恐らくロックがかけられている。逃がさない、とその声は言っていた。


「チ……面倒くさい相手だな。総員、攻撃開始!」

「「了解!」」


 見えたのはハサミを手にしたテディベア。数体のそれが走ってきて、すぐに撃ち抜かれて綿と布の残骸を晒す。

 けれど。


「隊長、まだまだ来ます!」

「うるっせえよ、足音聞きゃ分かる! 迎撃だ、迎撃! 撃破しつつ移動する! 着いてこい!」


 銃弾でテディベアを撃ち抜きながら走り出す。もはや完全にホラーの様相を呈しながらも、状況はそれよりずっと悪い。

 そもそも自我すらないゴーストと、敵が操る作戦行動を理解した殺人人形の群れでは厄介さが違う。

 色を名乗ったからには、魔法少女のクラスはC。Cレベルの魔法少女が100体程度で終わることはありえない。回復手段のことも考えると、文字通りに桁が違ってもおかしくはない。


 2000、もしくは3000体を超える総数。それだけの敵を葬れるほどの銃弾を持ち込んでいる訳がない。これをまともに相手していたら全滅する。ゆえにハサミを持って追いかけるテディベアから逃げるしかない。

 この敵地で逃げ続けるのは絶望的だが、しかし隊長の顔にはニヤニヤと笑いが浮かんでいる。彼はこう思っていた。


(自分の位置は知られず、そして土地勘もない地下では軍の精鋭でも追い込まれて殺されるしかないと――そう思ってんだろ。だが、それは勘違いなんだなあ。ここの奴らはどうせ魔法少女に大した権限は与えない。こっちはお前が使える放送室なんざ限られてることまで”知ってる”んだぜ。しかし、お前は地図もないと思い込んでんだろ。なあ、ネイビイ? いや、検体No “η-51”よ)


 装備の損耗を最小限の消耗にとどめながら彼らは更に最深部へと潜って行く。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ