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第17話 境界大学(中)



 一方、閃は一人牢獄代わりの病室の中に居た。

 彼を捕まえてきた二人の魔法少女は見張りとして扉の外に陣取っている。ただ立たせているだけなのは、組織がその魔法少女のことも信用していないと言う証だ。

 彼女らが下手なことをしても困るし、万一にでもこの男にたぶらかされても困るというわけだ。この男は何の力もない一般人と思っているが、クルミという実例がある。


 なお、病室であることに特に意味はなかった。

 そもそも5大悪は人体実験を行う秘密結社だから、檻よりも病室の方が多いだけの話。魔法少女に与えられる部屋も、基本的に病室を兼ねているかただの倉庫かの二択だ。

 何も力を持たない彼を閉じ込めるには丁度良かった。そもそもカードキーがなくても扉も開けられない仕組みで、検体観察用の心電図を流用すれば監視も容易だった。


「――ふむ。ふむふむ」


 閃は手の中で種を弄ぶ。これがあればクルミは一直線にこちらに向かう。そして自分を取り戻すためにここの連中と交戦を始めるだろう。

 大人しく従えと教育した覚えはない。必ず敵を皆殺しにしてでも取り戻そうとするだろうから。

 さらに、その騒ぎに釣られて軍も来ることも分かっていた。三つ巴の殲滅戦、データを漁る軍を隠れ蓑に、目的のブツを盗むのもやりやすくなると黒幕さながらにほくそ笑む。


 唐突に語り始めた。


「結局、魔法少女には人生経験と言うものがないから他人に染まりやすいんだよね。まあ、人間だから譲れないことはあるようだけれど。しかし、緊急時に選ぶ選択に限定すれば簡単に誘導できる。地震の避難訓練で言うオハシとかねえ、言い聞かせておけばその通りに行動してくれるんだ」


 不敵な笑みを浮かべて、ドアを見る。そして見計らったようにドアが開く。種を明かせば靴音を聞いていた、しかし一般人が悠々としていられる状況ではない。

 自らが異常であることを隠そうともしてしない態度だった。


「君はどう思うかな? 魔法少女ってさ、実はかなり単純だろ? 動かそうと思えば、簡単に転がすことができる。君もそう思わないかな。なあ、ダーク」


 入ってきた魔法少女は面食らった。奇麗な赤い瞳を不安に揺らし、つかつかと歩み寄ってくる。白くて長い髪が光に舞った。

 続く監視役だったはずの二人はあわあわとするしかない。魔法でカードキーを壊して侵入、後は腕力にものを言わせて攫って来たただの人間。そう、ただの人間だったはずなのにこの態度は何だ?


「どういうことですか? まさか、あなた――わざと?」


 手袋をはめたその手で閃の首元を締め上げる。人間の首を簡単にねじ切れる腕力など恐れもせずに閃は飄々と言い放つ。


「そう、全ては俺の描いた絵図さ。クルミはもう先遣部隊を殺してしまったかな? なにせ、君たちでは対抗できるだけの戦力を揃えるのも一苦労だろうから心配はしていない。なにせ、歴戦のCクラスは港湾の戦いで失ってしまったからね。今は貴重なCクラス、この本部から動かせやしないだろうから」

「……!」


 ダークはぶるぶると手を震わせる。ここでこの男を殺すことは容易い、と思う。だが、そんなことをすればいよいよ終わりだ。あのクルミとか言う少女が狂って周囲を巻き込んで破滅、その後は軍が全てをそうざらいにするだろう。

 嵌められた? 破滅の足音が脳裏に響いてきた。かなり絶望的な状況だから挽回する必要があっての行動のはずだが、これではまるでギャンブルで有り金を擦った後に借金する馬鹿なバクチ打ちではないか。


「いやいや、何か俺が仕組んだみたいな雰囲気だが悪いのは君の上なんだぜ。別に君たちの方針をどうにかできる権限なんて持ってない。クルミを使おうとしたのは君らだろ?」

「確かにそうですね。これは我らの自滅のようなものでしょう。手を出してはいけないものに手を出してしまった。クルミという魔法少女はあなたに心酔している。だから、失えば全てを犠牲にしてでも復讐する……!」


「さあ? 俺の死体を見たら案外自殺してしまうかもしれないね。生きている可能性があるうちはどんな非道に手を染めても取り返す努力をすべきだと、そうそそのかした記憶はあるけれど」

「――そして、私たちはクルミに言うことを聞かせるためにあなたが必要。あなたの死体を見せて自殺させることができたとしても、状況は何も好転しない。やはり軍に滅ぼされるのみ」


「はっは。どうせ境界大学は滅ぶぜ、なにせ役目を果たしたからな」

「お前、一体何を言っている?」


 今から閃が言うことは恐ろしいことだと言うことが予感できてぞっとする。その言葉は境界大学として活動してきた教義の根幹を揺らがす絶望的な事実だということがうっすらと分かってしまう。


「支援者についての話だよ」

「……お前。お前は、支援者を知っているのか? 大国により犠牲と貶められた中国を祖とする者達。そして、私たちはその復讐のために作られた魔法少女。【大災厄】を引き起こした【次元相転移式核融合炉】の暴走、しかしそれはアメリカやEUのスパイが仕組んだもの。その事実を闇に葬るための虐殺! 我々は支援者とともに間違った大国の正義へ復讐せんがため……!」


 叫ぶ。ダークは古株の魔法少女がゆえに事情には通じている。そして、通じた分だけ染まっている。朱に交われば赤くなる。大国への復讐、それを原動力とするエージェント達の思考に影響された。


「それは違うね」

「……え?」


 ばっさりと切り捨てた閃の言葉に思考が止まる。


「境界大学の支援者はアメリカだよ。その虐殺を正義とするため、中国人が核になったテロリストが必要だったのさ。だから君たちを世界的なテロリストまで育て上げた。殺すのは間違っていなかったと喧伝するために。どうせ愚かな民衆は時系列など区別できない」

「は? え? うそ……私たちを支援していたのは敵だった? 利用されていただけ? そんなの、勝てるはずが……ない……! どうすることもできない! 憎い敵に利用されるだけで……!」


 慟哭するダーク。組織の活動は全て無駄だった、否――それどころか”逆効果”だ。憎い敵を喜ばせるだけの不毛な徒労。

 なにせ、お金の出所はその敵だ。例えるとしたら理事よりも上の立場の株主、勝てるわけがない。


「そして、一石二鳥も狙ったわけだ。君たちの【アルテミス】、なぜあんな兵器を開発した? 大国に対抗するなら破壊兵器を作るべきだろ」

「それは……以前に上級エージェントの中でも議題になっていた。……馬鹿な。作ったのは支援者の要望であったなら話が通ってしまう……!」


「そう。非人道的な手段が君たちの悪評になるから、アメリカの権力者様方には二重に都合がいいね。敵の技術を接収して使うのはよくある話だし」

「私たちの【アルテミス】が、奴らのための技術と言うのなら。完成に近づいているのに、どうして……?」


「アメリカにとっては完成したよ。だから、技術を接収しなくてはいけないだろう? こういう言葉があるぜ。”狡兎死して走狗烹らる”ってな。君らはもう用済みだ」

「……それが。それが真実だと言うのか……!」


 彼女はうなだれてしまい、白い髪が床に散らばった。

 後ろの二人の魔法少女は話についてこられず、アイコンタクトで何を言っているだろうこの人たちと何も意味のないことをしていた。


「だが、お前は日本人のはず。なぜお前が出てくる? そのような知識を一般人が得られるはずがない。アメリカの機密だぞ!」

「そっちも気になるか。……ふむ。まあ、話しても良いだろう。まず、君たちがSS級の素材を手に入れた経緯は聞いているか?」


「5大悪に魔法少女関連技術をもたらした謎の人物が居たと言う……アメリカでもない、EUでもない、別の勢力。ただの噂話かと思っていたが……上級エージェントしか会ったことのないと言う白髪碧眼の魔法少女は実在したと?」

「そいつは、うちのリーダーだね」


 あっけらかんと言い放った。


「――」


 今度こそ、何も言えなくなってしまった。このダークは組織内にもかなりの情報網を持っている。長く生きている分、ただのエージェントよりも詳しい分野もある。

 だが、閃の言葉は上級エージェントさえ知りえない情報だった。しかも、上級セキュリティが必要とされる機密情報が裏付けにしかならないという最悪な状況。


「そう言えば、そっちの二人」

「「――へ!?」」


 閃が順番に指を差すと驚いたように見上げる。


「君たちもうちに来るかい? 人手はあって困るものでもないからね」

「うえ……ど、どうしよう」

「ええと……えと、でも裏切るのも」


 顔を見合わせる。碌に忠誠心を持っていないが、じゃあどうしようというのはない。ただ言われるがままの魔法少女。組織が食い物にしてきたのは多くがこのような娘だった。


「チャンスは人を待たない。特に能力がないのであれば。君たちは手遅れだ」


 冷たく言い放ち、彼女らに話しかけたことをなかったことにするかのようにダークに再び目を合わせる。


「……あ”」

「むっ。力のない、人間の癖に」


 むくれ始めた二人の魔法少女。だがダークはそこを気にもかけずに振られた閃の指に挟まれたもの、植物の種を見る。


「それは……クルミの魔力! まさか、見逃して!?」

「ひゃっ……」

「ふえ……」


 次の瞬間、ダークが後ろの二人を睨みつけた。閃を脅してやろうと怖い顔をしていた二人の魔法少女が即座に委縮して縮こまる。


「まあ、そう責めないでやってくれ。俺が隠したんだから見つけられないのは当然なんだから」

「何ですって?」


 自信満々なその言葉に呆気に取られて。


「では、ダーク。我々の活動目的は人類文明の救済、このままであれば滅ぶであろうこの世界を捨てて別の世界へ移住することなのだ。君の分の席はある、我々と共に来る気はないかな?」

「――」


 とんでもない勧誘だった。この部屋に張った瞬間から価値観がひっくり返ることが幾度もあった。

 そして、最後には仲間にまで誘ってしまうのだから。


「何言ってんのよ、あんた!」

「ダーク様、そんな奴なんて口を聞けないようにしてやりましょう! どうせ口から出まかせです!」


 ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人組。


「君たち二人は手遅れだと言った」


 冷たく告げたその瞬間。


「「――」」


 降ってきた巨大な種に押しつぶされて死んだ。これは『砲閃火(ホウセンカ)・転輪』、クルミが要塞に向かって数十発もの砲弾を打ち込んだ。流れ弾とも言える無差別の攻撃による呆気ない死だった。


「さて、俺もそろそろ動くか。ただその前に君には世界の真の姿を見せておこうと思う」

「……真の姿、だと?」


「暴走した【次元相転移式核融合炉】は別の世界への道を開いてしまった。そこは世界の全てに繋がる異次元回路。そこから魔物は来るのだよ」


 閃はいつのまにか手に握っていた剣を一閃する。すると、宇宙空間のごとき歪みが現れた。


「それは……」

「その異次元回路を我々は【道】と呼称している。そう――これがアメリカすらも知らない世界の真の姿だ!」


 そして、ダークは見た。大挙する魔物の群れ! 突如日本に出現したSS級など及びも付かない化け物どもが群れを成して歩いている!


「――」

「この程度であれば俺が一掃できるがね」


 剣を一閃する。魔物の群れが吹き飛んだ。


「刻一刻と魔物の群れは強く、そして数を増して行く。我々で対応できなくなる日も近い。今も、少し放置しただけでこれだ」


 凄まじいまでの所業。奇跡とすら呼べない馬鹿馬鹿しい嘘が、目の前に。強さとは、すなわち生きることとダークは断じている。弱いから、ダークは色々とせせこましく生きてきた。

 そんな信じがたい光景を作り上げた彼は苦々しいうんざりした表情を浮かべている。ダークには想像もつかないほどの強さをもってさえ悩みは尽きない。ならば。


「さて、協力してくれないかな? 別に君に戦えという気はない。俺はこの境界大学を支えてきた君の力を買っているよ」

「――分かりました。あなたのものになりましょう」


 す、と頭を下げた。


「では、まずは【アルテミス】の源となった魔法少女の成れ果てを手に入れに行こう。研究データはこれから来る軍の餌にでもしてしまえばいい」

「……成れ果て。エンジェル、ですか」


「その通り。場所を知ってる?」

「ええ。ですが、先の一撃でこの部屋は半壊していて私の力では壊すのも難し――」


 ダークの手を掴んで、歪みに足を踏み入れた。次の瞬間、潰されて脱出できなくなった扉の外側に立っていた。


「全ての場所に繋がると言っただろう? 応用すればこんなこともできる」

「……では、こちらへどうぞ。我が主」


 ダークはしずしずと歩いていく。もはや古巣に忠誠心はない。今は巨大な魔物を滅ぼし尽くすこの力に忠誠を誓っていた。



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