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第8話 少女とのショッピング



 そして、一方クルミは一日休んだら見事に風邪が治った。魔法少女の耐久力は高いし、気が抜けて今までの疲れが噴出したのと、あとは1日中Yシャツ1枚で過ごしたせいだったのだろう。

 閃も次の日に”仕事”の遅れを取り戻し、時間は流れて週末へ。ショッピングへ行くのだ。これが初めてのお使いならぬお買い物なのが悲しいところだが、クルミも大丈夫なのかなと言う心配半分、あとは嬉しさが半分で浮かれている。


「あの……本当にいいんですか? 私が外に出て? 誰かに見られたら、お兄さんが困ったことになるんじゃ」

「別に気にすることないよ。日本人なんてフードで顔隠してる奴が殆どだし。その有様でも外には出たいって奴らが多く居てね、人混みに紛れられる。気が知れないが、しかし好都合だ。烙印だって長袖と薄い手袋で隠しきれるよ」


 クルミがぱっと手で腕の紅い烙印を覆い隠す。クルミはどうしてもそれが自分が人間ではないと知らせてくるそれが好きになれない。


「それでも……あの、何か起こってしまったりだとか」

「この平和な日本で何が? 裏で何が動いていようが、表通りを日中歩く分には危険はないよ。時間は俺が見ておくから、クルミは思いきり楽しんでくれればいい。それとも、俺は貧乏で女の子に服を買ってあげる余裕もないと思われているのかな」


「そんなこと! あの……私の食事とか、お洋服までもらっちゃって。何も返せるものはないし」

「クルミが喜んでくれればそれでいいよ」


 ――目的を考えたら、ね。と、閃は言わないけれど。とりあえず、不自由をさせる気はない。不自由なんかで魔法の力が上がるなら5大組織も苦労はないのだ。


「ううー」


 縮こまって、困ってしまっている。ただ……


「朝食を食べたらすぐに着替えてしまうくらいに楽しみにしてる癖に、何をそんなにためらっているのさ。心配しなくてもその白いワンピースは似合ってるよ。あの変なTシャツと違ってね。さ、行くよ」


 手を取ると、びくりと震えて。しかし一瞬後には握り返してくれる。困った顔に笑顔が咲く。


「――電車で行くの?」

「まあね。昨今、車は使いにくくなってしまったから。まあ、税金だの、そもそも街に集約しすぎて駅で十分になったという事情もあってね。もうちょっと若い時は持ってたけど手放してしまったな」


「若い時? おじさんって言うと怒るのに、変なの」

「それはアレだな。大人の特権ってやつだ」


「じゃあ、私も子供の特権を使っていい?」

「なに? 言ってみて」


「おんぶして。私は魔法少女だから疲れないけど、してみたいの」

「それくらいなら。駅前についたら降りてね」


「うん!」


 彼女がよじよじとよじ登る。彼女の身体が密着して変な気分になる。それと、落ちないようにふとももが押し付けられる。


「駅前に付いたら降りてね」

「うん……もう少ししていたいけど」


「また今度ね。電車に乗るから、手を離さないでね」

「……うん!」


 電車に揺られること10分、ショッピングモールの前についた。


「さて、子供服のところでも行こうか」

「う、うん。あの、私、服とかよく分からないけど」


「あっちにそれっぽい店があるね。入ってみようか」

「はい」


 連れて行っても、遠くから眺めるばかりで微動だにしない。これは、手を引いてやらないと選ぶこともできなさそうだ。


「まあ、少し毛色の違うお店だったけど……この辺りは似合うんじゃないかな?」

「え……あの、お兄さん。こういうのが好みですか?」


 俗に言うゴスロリという奴だった。クルミとしては着方も分からずに戸惑ってしまう。実は値段も相応に高いのだが、そこは幸運にも値札を見るという習慣がなかった。


「――お嬢さんにプレゼントですか?」


 店員さんが来ると、クルミはすぐに閃の後ろに隠れた。


「うん、少し手伝ってあげてもらえるかな」

「はい、こちらへどうぞ」


「あ、あの……」

「ほら」

 

 背中を押すと店員さんに連れられて試着室に消えていった。そして、5分ほど待つと現れる。


「……あの、お兄さん。これ、どうですか?」


 恥ずかしそうにこちらのことを見上げてくる。豪華なフリルのついた黒いワンピース。襟にはバラの意匠がたっぷりとあしらわれている。

 もじもじと手を組んで、なんだか逃げたさそうに見える。


「うん、とっても可愛いよ。よく似合ってる」

「はい。……あの、ありがと」


「うんうん。じゃあ、これを買おうかな。他にも気になる服はない?」

「えと……もうちょっと、動きやすい服がいいかな……?」


「そっか。なら、別のお店に行こうか」

「うん」


 そっと隣に並んで手を握る。


「クルミはその服のままで構わない?」

「うん。お兄さんがかわいいって褒めてくれたから」


 腕を組んだ。




 そして、他にも買い物をしつつ歩いていると。


「……」


 クルミが自分の喉をなぞる。


「喉渇いちゃったかな? ま、ずっと買い物してたからね。少し待ってて。何か飲み物を買ってくるよ」

「え……お兄さん?」


 閃は手を振ると小走りで行ってしまった。


「うう……」


 置いていかれたクルミは挙動不審に辺りを見渡している。そして、かけられた声にビクリと反応する。


「見ていられんな。それでも魔法少女か? 人間を越えた戦闘兵器。開発費、製造費を考えればミサイルなど及びも付かん”それ”が情婦の真似事とはな。恥ずかしいとは思わんのか」


 声をかけてきた少女は巫女のような衣装を纏い、黒髪に炎をあしらったアクセサリーを付けている。かわいらしい見た目に反して、苛烈なまでの憎しみを視線に乗せてぶつけてくる。

 日常風景に溶け込むはずのない姿だが、他の誰からの視線も受けていない。


「誰?」

「私は魔法少女『紅椿』。貴様と同じく翠竜会(シェイロン・フェイ)に作られ、そして袂を分かった存在。奴らには我が魔法が理解できなかったゆえに脱走を許した。我はこの魔法を『紅椿』と呼び、我が名前とした」


 魔法少女魔法少女と、裏に触れる用語を堂々と話しているがそれは警戒心がない訳ではない。特殊な発声法で、話す相手以外にはぼそぼそとしか聞き取れないのだ。


「……私は。……クルミ、は――お兄さんに名前をつけてもらって……」


 だが、そんな裏はクルミには分からない。ただ、怖い女の子が怖い視線を向けてきているだけだ。

 それに、周りの人もそそくさと厄介ごとを避けて遠巻きにしているし。


「ふん。魔法少女に名前はない。名称に縛られん無限の可能性を持っているのだよ。だがな、ひるがえるにクルミとやら、それはお前の魔法に関係はあるか?」

「なくはない、けど……」


「はっきりしない奴だな。その有様で人など殺せるものかよ。使われない力に意味などない。戦う意思もなく、力もない魔法少女などかかしにも劣る」

「……あうう」


 クルミは怯え切って閃を探しに視線が彷徨っているが、しかし彼が近くには居ないということが分かっただけだった。


「ふん。こうまで言われて、やることは力も持たぬ一般人に頼るばかりか。下らん、私は貴様を蔑如する。その様で、そんなごときで何ができる!? 自らの力で道を切り開くことのできん愚物は、この世界の闇に喰われ消えるのみ」

「………………」


 つかつかと歩み寄る彼女に対して、クルミは視線を逸らすしかない。この距離で魔法を使われれば抵抗などできない。種を成長させるその魔法は完全に遠距離型だ。

 一方で相手は脱走後に自分の力で生き抜いている。どんなタイプであろうと、どの距離でも対応できなければ死ぬだけだ。近距離もいけると考えて間違いない。それを考えれば、戦闘になればクルミの生存は絶望的である。


「ああ、それとも人が周りに居れば大丈夫と勘違いしたか? 確かに騒ぎを起こせば軍が重い腰を上げるだろうがな。しかし、静かに人を殺す方法などいくらでもあるのだよ。貴様が大事に想っているあの男を殺せば、戦う気の一つも起こるかな」

「――ッ!」


 身体が震えた。クルミには世の中の事など分からない。確かに軍が本腰を入れれば一魔法少女を殺すことなど容易いだろう。

 そして、そんな彼らに隠れて人を殺すことができるのかと言うと……この人は出来るから言ってそう。としか。

 

 だから、想像してしまった。あの人が失われるところを。


「おや、こちらを見たな。視線の一つも合わせなかった臆病者がどういう風の吹きまわしなわけだ?」

「――私は、クルミはどうなってもいい。十分、幸せをもらったと思う。だけど、あの人を害そうとするなら……!」


「戦う、と言うわけだ。組織は日本との戦争を恐れていたが、奴らはお前の言い分など聞かない。日本人を守ろとしたからなどという言い訳をしたところで銃火の的にされるだけだぞ」


 クルミは、きっと睨みつける。人を傷つけるのは怖い。けれど、その怯えよりも恐れることがあるから。そのためなら、戦える。


「関係ない。クルミには、あの人だけだから」

「救ってくれたなら誰でもいいか? 売女め、どうせ奴も小さい身体に欲情する変態だろうが。変態にしっぽを振ることがそんなに嬉しいか?」


「クルミを救ってくれたのはあの人だから。だから、クルミにはあの人しかいないの。クルミからあの人を奪おうとするなら、クルミは戦う」

「……ふん。少しはマシな目をするが、所詮はあの男の玩具。私は貴様を魔法少女だとは認めん。あの男諸共に世界の闇に喰われるがいい」


「それでも、クルミが救われたのは嘘じゃない」

「嘘も真実も、力がなければ喰われるのみと言ったはず。次に会う時まで生きていれば、少しは認めてやるよ。だが、よくよくあの男から目を離さんことだ。でなければ……ああなる」


 す、と指を差す。まさかと思い、そちらを見てみると……何もない。


「――紅椿!」


 振り向いたが、何もない。あの一瞬で彼女は消えていた。


「どうしたの、クルミ?」


 閃がやってきた。手にはジュース。


「……あ、いえ。なんでもないです」


 伝えることはできなかった。


「はい、オレンジジュース。気に入ってたよね?」

「え? あ、はい。クルミ、喉かわいてました。おいしい……」


 甘さは心を癒してくれた。


「クルミ? まあ、いいか。色々と買ってしまったね。食事にも行って。……あとは、ちょっと行きにくいところに行くだけかな」

「行きにくいところ?」


「……下着売り場」

「あ」


 食事に行った後、下着売り場に行った。閃は店の前で待ってたから、一人で選んだ。初めての外食については、思ったほどおいしくはなかった。

 いや、味はおいしいと思う。けれど、所詮はあったかいだけで大量生産された味だ。お兄さんのホットケーキには遠く及ばなかった。それを伝えたら、「変な子だね」と笑われてしまったけれど。

 最後にホットケーキミックスとその他の食材を買って帰路についた。




 色々責められたストレスで1人称が私⇒クルミに。さっそくヒロインが幼児退行しました。



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