第3部 エピローグ
「くう! はあはあ……」
全身に走る激痛をこらえ、舞は横浜の高級ホテルを目指していた。
他に行くあてがないのだ。
「舞!」
ホテルに辿り着くと王慧琳が外に出ようとしている最中だった。
王慧琳は慌てて倒れそうになった舞の体を支える。
「急いで陸遜を呼んでちょうだい」
取り敢えず王慧琳は舞いを空室に運ぶ。
このホテルに医者はいただろうか?
「王殿、どうしました?」
「舞が危険な状態なの。出来るだけ早く医者を呼んで」
「わかりました。すぐに来ますよ」
陸遜はあっさり了承したが、本当にその通り極めて短時間で医者が現れた。
どうやらホテルに常駐しているようだ。
「よかった」
王慧琳は胸をなでおろし、大きな溜息を吐いた。
舞を巻き込んだのは自分達であり、陸遜だ。
死なれたら後味が悪い。
「では、王殿。私は来客があるので、これで失礼します」
軽く一礼をし、陸遜は部屋を後にした。
ここにいても出来る事は何もない。
「来客……?」
不審に思ったが、王慧琳は留めることはしなかった。
ただ来客がどんな人物か、興味はあったが。
その来客を黒旗軍が壊滅したため空いた部屋に案内し、陸遜はもてなした。
「それで今日は何の用ですかな、日南殿?」
このタイミングで訪れるという事は、舞の、ひいては太陽の精霊ラーについて探りに来たとしか思えないが、陸遜は白々しい言葉を述べた。
「小林舞という学生がこのホテルに『逃げ込んだ』との情報がありましてね。身柄を引き渡してもらえませんか?」
日南は片頬を歪めた笑みを浮かべながら、さも当然と言わんばかりの態度をとる。
部下にホテルを見張らせているのだが、なかなか陸遜自身は日本の敵としての尻尾を掴ませてくれないのだ。
今回の件は、ちょうどいいキッカケになるかもしれない。
そんな思惑が日南にはあった。
「逃げ込んだとは穏やかではないですね。何かあったのですか?」
しれっと陸遜は状況を聞きだそうとする。
体にかなりの損傷を負った舞を目にし慌てたからだ。
「ラーという古代精霊が暴走したようです」
その日南の言葉で陸遜は全ての事情を把握した。
仕掛けるのが早すぎたのだ。
「そうですか。しかし、そのような人物は当ホテルにはいませんが。違うホテルと勘違いなさったのでは?」
監視されているのを知っているのだぞ。
陸遜は言外にそう告げた。
「わかりました。では東方の三神山という組織について、何かご存知ですか?」
「確か日本におけるASUの1つかと」
「ええ、その通りです。陸遜さんなら、もっと詳細な情報を掴んでいるかと思いまして」
「それは、期待に添えず申し訳ない」
大人しく陸遜は頭を下げた。
内心は冷や冷やしているが、それをおくびにも出さない。
出したら日南につけこまれてしまうからだ。
それというのも東方の三神山という組織は、陸遜が作り出したものだからである。
詳細な情報も何も、全てを掌握していた。
ああいう組織があると、いろいろと目くらましになって都合が良い。
少なくない額の資金を投資していた。
もちろん人員も。
小林舞という少女も、もう少しすれば中核となって働いてくれるだろう。
ここで失うわけにはいかなかった。
「話は変わりますが、冬月教授は息災ですか?」
この陸遜の言葉は、さすがにこたえた様だ。
日南の笑みが引きつっている。
「藍家が提訴を取り下げたため、じきに釈放されるそうです」
「それはよかった」
「ええ」
これで日南は追及する気が失せてしまった。
恩師の冬月樹のことは、それほど致命的な話題なのだ。
2人とも表面上は穏やかだったが腹に一物も二物も抱えた会話は、これで終了となった。
日南が席を立って小林舞の件を諦めたからだ。
「陸遜、今いいかしら?」
「ええ、構いませんよ」
「私は香港に帰るわ」
「また急ですね。しかし、あなたは空港で捕まってしまうのでは?」
「アテがあるの」
王慧琳としてはあまりアテにしたくなかったが、背に腹は代えられない。
翠家の翠瞬を頼るのだ。
「舞のこと、頼んだわよ?」
「無論ですよ」
陸遜は二つ返事で請け負った。
強力な精霊使いの手駒は、いくらでも必要だからだ。
こうして舞の安全は確保された。
太陽の精霊ラーの事件は、うやむやのまま幕を閉じた。
少し短いですが3部はこれで終了です。
やはり下書きがないと、グダグダ感が……。
番外編も含めての第3部ということで。
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