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番外編 生徒会長の思い出 ~その2~

 正式に生徒会長となった茉夏は、精力的に生徒会の業務に取り組んだ。

 居心地の良い自分の場所を作るために。


 そうしていると、月日はあっという間に過ぎてしまう。

 時には先輩に相談しにいったりもした。


「茉夏さん、頑張ってるね。精霊大学への推薦も決まって今は暇だし、出来る事があるなら手伝うよ」

「ありがとうございます」


 二つ返事で協力してくれる先輩に、茉夏は深々とお辞儀をする。

 まだまだ、手に負えない事ばかりだった。


 1年生だから仕方ない。

 それに頼れる誰かがいてくれる、というのは茉夏に奇妙な安心感を生んだ。


 蒼家では絶対に抱くことのない感覚である。

 いつまでも、こんな時間が続けばいいと茉夏は思った。






「クリスマスイヴも居残りとはね。風紀委員長も辛いわ」

「その風紀委員長さんが、こんなところで油を売っていていいのかしら?」


 茉夏はくすりと笑った。

 無論、生徒会長も授業後に居残りである。


「大体、イヴの夜に一緒に過ごす相手がいるのかしら?」

「茉夏だっていないだろう!!」

「だから、居残って仕事してるんじゃない」


 どやしつける汐莉に茉夏はしれっと切り返した。

 だが内心へこたれてもいる。

 きっと今ごろ先輩は意中の相手と、お楽しみの最中だからだ。


「というか、こんなにイイ女が2人して何やってるんだろうな?」

「ふふ。確かにそうね」


 手を出しづらい空気を放っている側にも問題あるのだが、茉夏は黙っていた。

 その代わり茉夏の代になり密かに持ち込んだ冷蔵庫からケーキを取り出す。


「汐莉も食べる?」

「食べる、けど何だか侘しいなあ」

「汐莉は壬生家で、何の不満もないのね」


 わざわざホールで買ったクリスマスケーキを、茉夏は手際良く切り分け皿に乗せて汐莉に手渡した。


「そりゃあ私は腕に自信があるからな。文句を言う奴はギッタギタにのしてやるだけさ」


 汐莉は勢いよくフォークをケーキに突き立てた。


「そ、そうなんだ……」

「なんだ、茉夏は蒼家で問題でもあるのか?」

「次期当主争いに辟易としているのよ」

「つまらないことで悩んでるんだなあ。どうだっていいじゃないか、そんなもの」


 本当につまらなそうな顔で汐莉は断言する。

 汐莉は壬生家の当主の座など狙っていない。


「強い奴が勝つ! 肩書きなんか関係ない!!」


 単純明快な真理だった。


「そんな風に割り切れる汐莉が、羨ましいわ」

「別に蒼家の当主が全てじゃないだろう? 現に先代の生徒会長だって、虹七家の人間ではないわけだし」


 汐莉の言葉に茉夏は、はっとさせられる。

 先輩は普通の精霊使いなのに、生徒会長を2年も務めたのだ。


 確かに肩書など実力の前では無意味なのかもしれない。

 精霊使いとは力が全てという、ある意味とても結果が目に見える世界の住人である。


「力が、いえ結果が全てか」


 最後に残ったイチゴを茉夏は口へ運んだ。

 少し酸味が効いていて今の心情を表しているように、すっぱかった。


 だからといって、これまで染みついた習慣は体から抜けない。

 しかし視界が良好になった気がした。


「そろそろ下校時間だ。帰るとするか」

「風紀委員の方はいいのかしら?」


 茉夏の目は疑念の色を湛えていた。


「他の連中は、とっくに帰したさ」

「意外に部下思いなのね」


 かく言う茉夏も同様である。

 そうでなければ、さすがに生徒会室でケーキを食べ始めたりしない。


 2人は戸締りを確認すると足早に校門をくぐった。

 帰路の途中で市街地に入ると、辺り一面イルミネーションで飾られている中で恋人たちは腕を組み、うたかたの幸せを噛み締めている。


 そんな中を年頃の娘が女同士で並んで歩き、通り抜けるのは場違いで気持ちが萎えた。


「あ……」


 つい間抜けな声を出してしまい、茉夏はしまったという顔をする。

 先輩が、やはり2学期で引退した生徒会副会長の女子生徒と腕を組んで、楽しそうに歩いているのを目撃してしまったのだ。


 茉夏の胸がもやもやする。

 予想以上にショックを受けている自分に驚いた。


 汐莉は横目で茉夏の顔を窺い口を噤んだ。

 茶化せる雰囲気ではないと、その表情から読んだのである。

 それに汐莉も羨ましかった。


 恋人たちの街に溶け込んでいる元生徒会長と、元副会長のことが。

 来年は自分もこの風景の一部になると、汐莉は密かに誓った。






 冬休みが終わると、3年生はほとんど登校しない。

 そのことは、むしろ茉夏にはありがたかった。


 先輩にどんな顔をして会えばいいのか、わからないのだ。

 そして迎えた卒業式の日。

 こればかりは先輩と顔を合わせないわかにはいかなかった。


 茉夏が花束を贈呈する役なのである。

 卒業式、そしてホームルームも終わり生徒達は部室や委員会の部屋へ最後の別れを告げに、やや重めの足を向かわせた。


 それは茉夏も同様だ。

 真っ先に生徒会室へ向かい、花束やら飲み物やらお菓子やらの手配をする。


 3年生は二次会とかあるだろうから、卒業生を追い出す会はすぐに終わるだろう。


「さすが茉夏さん。ちゃんと準備が済んでるね」

「頼れる生徒会長さんだわ」


 先輩と彼女が同時に生徒会室に顔を覗かせた。


「安心して、卒業して下さい」


 かなり茉夏は狼狽したが、軽く微笑を浮かべて返した。


「総司もいるし、一気に第3分校は強くなりそうだな」


 その先輩の予想は半分正解だ。

 一か月後に、さらに優秀な生徒達が入学してきて飛躍的に第3分校は伸びるのである。


「その種を蒔いたのは、あなたですよ会長……、いえ元会長ですか」


 清涼な声で総司は先輩の人事を称賛した。

 やがて新旧生徒会の生徒が全員顔を揃え、


「乾杯!」


 と先輩の音頭で短い謝恩会が始まった。

 もう会えないのかと思うと、茉夏の胸にくるものがある。


 先輩と彼女は寄り添うように、ずっと2人で一緒にいるのだ。

 その様子を、どうしても茉夏は目で追ってしまう。


 これは推測というよりも、恐らく確定的なのだが仮に先輩に彼女がいなくても、茉夏と付き合うことはないに違いない。


 虹七家とそうでない精霊使いという、見えない壁が存在するからだ。

 やがてささやかな宴も終わりを告げ、卒業生は名残惜しそうに退室した。


「はあっ」


 大きな溜め息を1つ吐いて、茉夏は肩を落とす。

 1つの時代が幕を下ろしたのだ。


「会長も帰っていいですよ。あとはやっておきますから」

 ここで総司に任せたことが空き部屋を自由に使用させる伏線となるのだが、茉夏に未来を見通せる目があるはずがない。


「ありがとう。それじゃ、お願いね」


 茉夏は勢いよく床を蹴って生徒会室を飛び出した。

 急いで先輩を追いかける。

 どうにか、昇降口で追いつくことができた。


「茉夏さん、どうしたんだ?」


 息せき切って走ってきた茉夏に、先輩と彼女は訝しげな顔を向ける。

 すうっと息を吸い込み茉夏は呼吸を整えて、言った。


「先輩、今までお疲れ様でした!」


 深々と頭を垂れる。


「うん、ありがとう。茉夏さんも元気でね」


 手を振りながら先輩は彼女と校舎の外へ出た。

 茉夏はただ、2人の後ろ姿を見送る。

 友情以上恋愛未満の生徒会長の思い出も、こうして終わりを迎えたのだった。

 まさかの戦闘なし!

 下書きもなし!

 で書いていますので、ただでさえ拙い文章が益々ひどいことに。

 その代わり早く投稿出来ています。

 どちらがいいんんでしょうか?

 次回から、第3部に入ります。

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