第10章 それぞれの決着 ~その4~
「雷の柵!」
蓮が精霊魔法の行使を急いだ理由が、ここにあった。
攻守両面でうまく立ち回る。
愛李のように同時に精霊魔法を放てれば理想的だが、残念ながら蓮には無理な注文というものだ。
代わりに2度、迅速に精霊魔法を放つ。
能力の卓越した精霊使いであれば、初歩の精霊魔法であっても高い威力を得ることができるのは、これまでに述べてきた通りだ。
炎熱の投げ槍、旋風の鎌と岩石の城壁、雷の柵が激しくせめぎ合い、絶命寸前の生き物のように身悶えしたのち、全ての精霊魔法が四散した。
蓮と守は首尾よく攻撃を防ぎ切ったのである。
そして――、
「炎熱の渦!」
これまで戦闘に参加していなかった達也の精霊魔法が、ついに完成した。
ターゲットとなった相手の周囲に炎が立ち上り始める。
チンケな防御魔法では防ぎきれない。
何故なら守の防御魔法を打ち砕いた達也の渾身の一撃なのだ。
「決まったな」
蓮は勝利を確信した。
予想通り、炎熱の渦は効果範囲を広げている。防ぐことができないでいる。
このままでは非常に危険な状態だ。
「勝負アリ!」
審判が判定を下すと共に、周囲から水の精霊魔法が介入し即座に鎮火された。
全国大会だけあって、なかなか腕の立つ精霊使いをスタッフに起用しているみたいだ。
「優勝は、第三分校!」
スタジアム中にアナウンスが響きわたると、達也、蓮、守の3人に万雷の拍手が送られた。
「出場すら危うかったのに、まさか優勝できるとは思わなかったよ」
正直、達也は優勝したという事実を信じられない。
この場にいることさえ、違和感があるのだ。
「表彰式だ。行くぞ」
「あ、ああ」
蓮に促され、達也は表彰式へ向かった。
3人揃って表彰台に立ち、優勝トロフィーが授与される。
「高柳、貴様が受け取れ」
「そうですねぇ。今回は、それが一番妥当かなぁ」
蓮と守は今回の優勝の一番の功労者が誰かわかっていた。
各自バラバラのまま戦っていたら、どこかで躓いたに違いない。
だから美味しいところを譲ったのだ。
「いや、しかし」
意味が分からず、達也は腰が引けている。
こういうスポットライトがあたる場所に慣れておらず、戸惑ってしまうのだ。
「さっさとしろ!」
「わ、わかったよ」
「貴様には、その資格がある」
決勝トーナメントの直前に蓮がそれまでの方針を転換したのには、やむを得ない事情があった。
香港四天王および香港軍との戦いが、その主たる原因である。
紅家の次期当主が香港軍の拠点となっていたタンカーを制圧した。
それに香港四天王を撃破したのは、蒼家の次期当主と候補、翠家の次期当主と聞く。
翻って自分は?
全く手柄を立てていない。
絶対にこのまま手ぶらで帰るわけにはいかなかった。
せめて新人戦チーム戦の優勝くらいしておかないと、紫家の人間として面子が立たないのである。
虹七家の政治的な問題が絡んでいるのだ。
だからプライドを捨て、達也を頼った。
チーム戦だったことも幸いした。
個人戦だったら考えを改めることなく、敗退していたに違いない。
そして見事、新人戦チーム戦の優勝という土産が出来たのだ。
達也に華を譲るくらい、蓮にとって些事に過ぎなかった。
受け取った優勝トロフィーを掲げ、達也は喜びを爆発させる。
今度は3人に、暖かい拍手が送られた。
「こういうのも、悪くないな」
日のあたる場所にいる。
それはそれで、蓮は充足感を覚えていた。
「またかよ……」
うんざりとした顔で、悠斗は声を発した。
精霊争覇戦本戦個人戦のトーナメント表に目を落とした際に、第三分校代表である総司が苦戦を強いられる組み合わせとなっていたのである。
「こうなってくると、陰謀じゃないかと疑いたくなるな」
悠斗は目もとに苦笑を閃かせた。
「お兄様、そんなに厳しいのですか?」
そう言う割に悠斗は楽しそうに観戦しているように、織姫の目には映る。
「次は準決勝だが、相手は藍涼一で決勝は恐らくあのバカが出てくるだろう」
「御ふたりとも虹七家の次期当主ですね」
「さすがに北条先輩でも、これは辛いはずだ」
虹七家の次期当主と連戦ともなれば、悠斗だって辛い。
新人戦個人戦の組み分けも第三分校に不利になる(事実、織姫もリタイアしてしまった)ものだったし、陰謀論を唱えたくなるのも無理なかった。
「ダーリン、人のことを心配している余裕があるのか?」
「壬生先輩、チーム戦の方は決勝まで第一分校と当たらないから大丈夫ですよ」
自分が参加する方を先に目を通しておくのは、当然である。
問題は、その第一分校なのだが、こればかりは悠斗もどうなるか予想がつかない。
「高城彰か」
タンカー襲撃の際に遭遇したが、かなりの実力者であると汐莉は肌で感じていた。
アナスタシア事件というのも気になるところだ。
「チーム戦だから、十分に勝機はありますよ」
「ダーリンにしては、弱気な発言だな」
「高城彰とナターシャ・サフィーナも、壬生先輩が言うところのプロですから」
しれっと悠斗は切り返す。
よくよく考えれば他国の軍人が参加していて問題無いのだろうか?
この辺の脇の甘さが、日本の危ういところである。
新人戦を終えて順位を付けると、達也たちの活躍もあり現在、第三分校がトップに立っていた。
次点が例の第一分校だ。
総司か涼一が優勝すれば、恐らくその時点で総合優勝も決まる。
ただ、その2人が準決勝で戦うあたりが勝負の綾と言えなくもない。
「何となく棚ボタ式に、あのバカが優勝してしまいそうだな。極めて高い確率で」
そうなったら瞬はドヤ顔で自慢してくるんだろうなあ、と想像して悠斗はげんなりした。
総合優勝の行方も、チーム戦で決まることになる。
様々な意味で悠斗は心の底から総司を応援するのだった。
アナスタシア事件は、そのうち投稿する予定です。




