第10章 それぞれの決着 ~その3~
「何をぼやっとしている!?」
「……すまない」
蓮の鋭い口振りに、達也は他人の胸中を詮索するのをやめた。
せっかくチームとして戦おうとしているところへ、水を差そうとしているようなものだ。
思案に耽るのを中断し、目の前の試合に達也は集中する。
ところが、達也は蓮に伝え忘れていたことがあった。
そのことを思い出したのは、試合の最中である。
ただ、これが良い結果を生むことになったのは、達也としては複雑な気分だが。
「始め!」
審判が淡々と開始の合図を告げる。
まずは相手チームの攻撃役の精霊魔法が完成し、顕現した風の刃が蓮に殺到した。
風の刃が視界に入っても、蓮は微塵も動じない。
付き合いの長い相棒が何とかするはずである。
「岩石の城壁!」
守の防御魔法が展開し、岩石の城壁が風の刃をガッチリと受け止め、蓮の体に届く前にシャットアウトした。
こんなのは朝飯前だ!
そう言わんばかりに守は口元を綻ばす。
次はこちらが反撃をする番であるが、すでに相手チームの攻撃役には堅固な防御魔法が展開されていた。
2人の防御役による2重の防御魔法を、まともに打ち破ろうとすれば相当な骨である。
トーナメントを勝ち進めば勝ち進むほどに、手強いチームを相手にしなければならないことを鑑みれば、ここで消耗するのは賢明な判断とは言えない。
それに、こうなることは織り込み済みだった。
だから達也は無駄な労力は避けるように指示したのだ。
「落雷!」「炎熱の投げ槍!」
事前の打ち合わせ通りに、蓮と達也は精霊魔法を放つ。
相手チームの防御役に雷が落ち、炎をまとった投げ槍が強襲する。
「あ!」
達也は間の抜けた声を上げてしまった。
ようやく作戦の失敗に気が付いたからだ。
当初の予定では、防御役1人に集中して精霊魔法を行使するつもりだった。
そのことを達也は蓮に伝え忘れたため、別の相手を攻撃してしまったのである……。
「あの紅悠斗が選んだだけのことはあるな」
まるで労うように蓮は達也の肩をそっと叩いた。
「2人も戦闘不能にしたんだ。文句なくこちらの勝利だろう」
「えっ?」
言われて我に返った達也が目を凝らせば、確かに相手チームの防御役が2人も倒れている。
達也は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。
続く準決勝の相手も攻撃役1人に防御役2人という編成だったので、
「先ほどの試合を偵察されている可能性があるため、作戦を一部変更しよう」
いかにも、もっともらしい理由で達也は誤魔化し、蓮と歩調を合わせて精霊魔法で攻撃する標的を決める。
蓮も守も精霊使いとしての能力は際立っていた。
対香港四天王用に切り札として温存したほどである。
そこへ適切な作戦が加われば、危なげなく勝利を重ねることができるのだ。
決勝トーナメント準決勝もこちらのペースで試合は進み、達也たちは苦もなく決勝へと駒を進めた。
「紫蓮、君の判断に全てを委ねる」
それが決勝を戦うにあたって、達也が立てた作戦だ。
これには理由があった。
決勝の相手は攻撃役2人に防御役1人という、達也たちと同じ編成である。
言ってみればミラーマッチだ。
が、達也のチームには攻守ともにレベルの高い精霊使いが存在した。
紫蓮である。
定石通りに達也が相手チームの攻撃役(防御役ではない)のどちらかに精霊魔法を放ち、守が防御魔法を展開するところまでは、すぐに決まった。
迷ったのは攻撃して一気に押し切るか、防御して持久戦に持ち込むかの判断だ。
ミラーマッチはこういうところが悩ましい。
達也が攻撃役を潰せなかったときにサポートするのか?
守が相手チームの精霊魔法を防ぎきれなくなった際にフォローに入るのか?
その判断を達也は蓮に委ねたのである。
「このチームの中心は紫蓮、君だからな。君次第で勝敗が、優勝が決まる」
蓮にハッパをかけ、達也はいち早く精霊争覇戦新人戦チーム戦の決勝に望む。
「俺次第か……」
蓮のいつもの居丈高な態度が成りを潜めていた。
自分の動き1つで、優勝のトロフィーを掲げられるかが決まる。
さすがにプレッシャーが大きい。
「蓮さんなら大丈夫ですよぉ。普段通りにやれば、絶対に勝てますからぁ」
よほど硬い表情をしていたに違いない。
相棒である守が心配そうな目を蓮に向けていた。
「そうだな。いつもと何ら変わらないな」
守の言う通り、普段通りに戦えばいいのだ。自分の実力なら、それで勝てる。
気負うことなど何もないのだ。
肩の力を抜き、蓮はいつもの不敵な笑みを浮かべた。
それに決勝の舞台の中心にいるというのは重圧であると同時に、蓮の自尊心を満たす物でもあるのだ。
蓮は達也の後方から見据える。
この舞台に立たせてくれたことに、内心で感謝した。
「いくぞ!」
「はぁい!」
蓮と守のコンビも気持ちが試合に入った。
試合会場に参加生徒が揃うと、一礼して誰もが緊張の面持ちで開始の合図を待つ。
何と言っても決勝だ。
「始め……っ!」
決勝の雰囲気に飲まれたのか、審判の舌がややもつれた。
そんな些細なことは気にも留めず、銃を抜き放つように右手を突き出し、蓮は印を結び始める。
「稲妻の手斧!」
達也が誰に向けて精霊魔法を放つか、蓮は当然知っていた。
その相手に先制攻撃を加えたのである。
まさに稲妻の如き速さに相手チームの防御役は困惑するも、間一髪で防御魔法の展開を間に合わせたようだ。
蓮の放った稲妻の手斧は行使するスピードを重視したため、大した威力は出ていない。
しかし、それ以上に展開された防御魔法には、焦りが生じたのか精霊力が込められていなかった。
両者が衝突した結果、稲妻の手斧も防御魔法も消滅してしまう。
これは防御側にとって、明らかに都合の悪い状況だ。
それでも相手チームの攻撃役2人は眉一つ動かさずに精霊魔法を完成させるあたりは、さすがに決勝に進出してくるチームだと頷かせるものがあった。
「炎熱の投げ槍!」「旋風の鎌!」
まだ印を結んでいる最中で無防備となっている達也を狙うのは、決まり切ったことである。
精霊魔法を放たれる前に倒すことに成功すれば、無傷で戦力を削ぐ結果をもたらすからだ。
「岩石の城壁!」
そうはさせまいと守は防御魔法を展開した。
防御に関してはトップクラスの精霊使いといえど、決勝進出チームの2人から同時に放たれた精霊魔法を完璧に抑えこむのは、いささか荷が重い。
全霊を傾けて守は達也を防御するものの、岩石の城壁が決壊するのは時間の問題……。
スタジアムにいる全ての人間の目にはそう映った。
次の月曜日、1月13日が祝日ですので、次回はその日に投稿します。




