第8章 スタジアム襲撃 ~その1~
精霊争覇戦4日目。
本戦チーム戦のグループリーグで、ようやく悠斗の本来の出番が回ってきた。
汐莉、そして茉夏とチームを組んでの出場である。
「ちょっと待って!」
悠斗が制止するのには、れっきとした理由があった。
開始の合図と共に汐莉と茉夏は躊躇なく猪突し始めたのである。
適正に関わらず、否応なく、悠斗がサポート役に回らざるを得ない状況になってしまった。
――こういうのは普通、先輩が無茶をする後輩をサポートするものじゃないのか?
口に出したら確実にこっぴどく叱られるであろう疑問を、悠斗は飲み込んだ。
「炎熱の柱!」
肩を落としつつも、悠斗は防御魔法を展開した。
2人の先輩を守るように幾本もの火柱が立ち上る。
正直に言えば、もともと火の精霊が適していないというせいもあって、悠斗はあまり防御魔法が得意ではない。それを実戦で培った技術で今まで誤魔化してきた。
この戦いではこれで問題無い。
炎熱の柱は相手チームが放った精霊魔法をシャットアウトすることができた。
だが自分と同等以上の実力を備えた相手、例えば違うグループリーグに入れられ、すぐ隣ですでに勝利を確定させている高城彰などには通用しないのではないか?
実際に戦うことになるかどうかもわからない相手と比較しても仕方ないのだが、どうしても不安になってしまう悠斗だった。
「雷火花!」
汐莉が自分の掌に小さな雷を発生させ、それを相手選手に押し付ける。
触れられた相手は一瞬で感電し、全身が麻痺してしまい体の自由がきかなくなってしまう。
自力でスタンガンと同等の威力を得られるこの精霊魔法は、帯刀禁止のルール(当たり前だ)のもとでは汐莉にうってつけのものといえた。
「水の弾丸!」
至近距離から茉夏が放った水の弾丸は、いとも簡単に相手選手を戦闘不能に追い込んでしまう。
水の弾丸は初歩の精霊魔法に分類されるが、それも使い手と使い方次第だった。
茉夏クラスの精霊使いともなれば、その威力は相当なものだし、至近距離から放つからには相手に与えるダメージも計算しなければならない。
だからこそ茉夏は初歩の精霊魔法を選択したのである。
うっかり上位の流水系の精霊魔法を放とうものなら、相手を殺してしまいかねない。
ともあれ傍目には難なく2人を片付けた時点で勝負アリだった。
どのように防御魔法を張り巡らせるか頭を悩ませたぶんだけ、悠斗は苦労を要したが。
「まあ、余裕だったな」
まだ手の平の上でバチバチしている小型の雷を弄りながら、汐莉は不敵に微笑んだ。
「お隣の優勝候補チームには、負けていられないしね」
先に試合が終わり、こちらの戦いぶりを窺っていた高城彰のチームに牽制するかのような鋭い視線を向けながら茉夏はにやと口元をゆるめた。
どうやら2人とも存分に力をふるえて、とても満足そうだ。
「いきなり突っ込まないでくださいよ……」
対して悠斗は不満たらたらだ。どうしても非難めいた口調になってしまう。
「ダーリン、女を立てるのが男の役目だろう?」
「後輩は先輩の言う事を聞くものよ?」
風紀委員長と生徒会長の2人に同時に窘められては、悠斗に返す言葉もなかった。
まだまだ人生経験が浅い、ということなのだろう。
悠斗は顔をひきつらせて沈黙するしかない。
今日はこのあと6試合も残っている。先が思いやられ、悠斗は軽い眩暈に襲われる。
「君が紅悠斗くんだな?」
横合いから発せられた高城彰の質問と、悠斗の応答の間にかなりの沈黙が続いた。
「そうだけど?」
悠斗は怪訝そうな表情を浮かべる。
高城彰なら確認せずとも自分の事を知っていると思ったからだ。
「悪い。想像していた感じと違っていたものだからな」
悠斗の困惑気味の表情の意味を察し、彰は詫びる。
開会式のときも思ったが、もっと棘のある人物だと想像していた。
それがこんなに豊かな感情の持ち主だとは、及びもつかない。
「君は義理の妹の織姫さんのことを、どう思っている?」
いたって真剣に、彰は明け透けな疑問をぶつけてみた。
無礼は承知の上でのことである。
「それは私も気になるところだなあ、ダーリン?」
汐莉にまで問い詰められ、悠斗は小さく肩を竦めた。
織姫に対する悠斗の態度は一貫しているため、答えには困らない。
「義理でも、義理でなくても妹は妹だ。それ以上でも、それ以下でもない」
疲れた笑みを横顔に刻みつつも、悠斗はハッキリと断言した。
イチイチ説明するまでもないはずなのだが、なぜこうもプライバシーに踏み込んでくるのだろうか?
「織姫さんは美人だもの。血の繋がりのない異性と一つ屋根の下で暮らしていたら、気になるものよ」
その茉夏の指摘は、非常に的を射たものだった。
思春期の若者ならば、普通は興味があって然るべき事柄である。
当事者である悠斗が根本的にズレているのだ。もう1人の当事者は、むしろそういう関係を望んでいるというのに……。
「そこの高城君も織姫さんのことが、気になるのよ」
茉夏に図星を突かれ、彰の目が宙を泳ぐ。
「知り合いにとてもよく似ていて、それで気になったんだ。妙な質問をして申し訳ない」
織姫を始めて見たとき、彰は心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けたものだ。
丁重に一礼したあと、彰は同じチームの女子2人に引きずられるようにして連れて行かれてしまった。
「アナスタシア事件で17歳の女子生徒が死んだと聞いたが……」
その女子生徒に織姫が似ているということなのだろうか?
だがそれだけでは、あの動揺ぶりは説明がつかない。
と、ここから思考が進まないのが悠斗の限界である。
「惚れていたのだろう、その女子生徒に。そういう機微がわからないのが、ダーリンの弱点だな」
だから自分や織姫、愛李の思いが通じないのかと汐莉は落胆してみせた。
悠斗はむっとするも汐莉の捕捉は適切なものだと認めたため、特に反論したりはしない。
「2人とも、次の試合が始まるわよ」
茉夏に促されて、悠斗と汐莉はグラウンドを移動する。
それでわだかまりを消して、次の試合に挑む。
いつまでもこだわるほど、悠斗も汐莉も互いを信頼していないわけではないのだ。
精霊争覇戦本戦チーム戦は下馬評通り、悠斗達のチームと高城彰のチームが易々と決勝トーナメントに駒を進めた。
組み合わせ次第で、この2チームが決勝まで勝ち進むであろうことは、精霊使いであれば誰もが予想できることであった。




