第7章 再会 ~その3~
ぎりぎりまで精霊力を振りしぼった愛李の精霊魔法が放たれた。
「岩石の杭!」
2本の岩石の杭が顕現し、標的めがけて飛んでいく。
意識が朦朧となりつつも、愛李は岩石の杭のコントロールに神経を使った。
第一撃は防御魔法に触れた途端に火花を散らし砕け散る。
しかし防御魔法の効果を弱めるという役目は果たした。
そして第二撃。
岩石の杭は弱体化した防御魔法を突き破り、対戦相手に直撃する。
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお~!!!!!!!!!!!!」」」」」
スタジアム全体がどよめく。
ただ愛李には余力が全くなかった。
これで決まらなければ次はない。
愛李は相手が立ち上がらない事を祈るだけだ。
しばらく様子を見て、判断を留保していた審判が最終的に、愛李の勝利を宣告した。
決勝トーナメントの進出を意識した瞬間、愛李の体から力が抜け、その場にガクっと崩れ落ちそうになる。
それを支えたのは織姫だった。
「おめでとう、愛李」
織姫は嬉しさの中に微量な苦さを含んだ顔をしている。
友人としては嬉しいが恋敵としては面白くない、といったところだろうか?
「ありがとう」
疲れ気味ではあるが、愛李は朗らかな笑みを浮かべた。
心底ほっとした様子が窺える。
こうして新人戦個人戦は決勝トーナメント最後の進出者が決まった。
8人中7人までが虹七家の人間という事実を鑑みれば、愛李がグループリーグを全勝で勝ち抜けたことは極めて異例の事態なのである。
精霊争覇戦2日目。
この日は新人戦チーム戦のグループリーグが行われる。
「あの3人、バラバラじゃないか……」
達也のチームの足並みが、まるで揃っていないのを目にして悠斗は閉口した。
チーム決めのときから、こうなる予兆はあったのだ。
よりによって紫蓮、黄守と同じチームなのだから。これではコンビプレイなど求めようがない。
「ダーリン、落ち着け」
汐莉に窘められたが、
「別に慌ててはいませんが」
作り笑いを浮かべて悠斗は声を返した。
3人が自分勝手な戦い方をしていても、勝利を重ねているのだ。
今のところ問題はなさそうに見える。
「そうか。ところでダーリンはどこの分校が優勝すると思う?」
汐莉は優勝予想を話題の俎上に載せた。
「我々第3分校か、札幌の第1分校ですね」
一刻だけ考えて悠斗は様々な要因を加味した自分の予想を述べる。
「第1分校……? 去年は下から数えた方が早かったはずだが?」
「ええ、去年は高城彰がいませんでしたから」
「そんなに凄いのか?」
小顔を傾げた汐莉が悠斗の目を覗き込むようにする。
悠斗がここまで意識している高城彰という人物に、汐莉は興味を魅かれた。
「壬生先輩は昨年の夏から秋にかけて起きた『アナスタシア(人形使い)事件』を知っていますか?」
「詳しくは知らないが、確か札幌の藍家に対して大規模な攻勢を仕掛けたのが、そのアナスタシアという組織なのだろう?」
「ええ、マトリョーシカ(人形)というロボットを使って藍家の、ある人物を狙った一連の事件のことを指します」
実のところアナスタシアという組織の詳細を悠斗は知らない。
もともとはロシアの組織らしいのだが、どうも誰かが情報を隠ぺいしているフシが見受けられる、そんな各マスコミの記載のされ方だった。
首相直轄の片頬を歪めて笑う『誰かさん』なら、可能な芸当なのかもしれない。
脳裏に様々な思案を巡らせながら、悠斗は続けた。
「そのアナスタシア事件の渦中にいたのが、高城彰です」
それが縁で精霊レンジャー課に入ったことを悠斗は伏せた。
ここでは必要のない情報だからだ。
「ん? ちょっと待てダーリン。どうしてそんな人物が、今まで埋もれていたんだ?」
「精霊と契約を交わしたのが、その事件のときだったからですよ」
悠斗の言葉の意味を瞬時に察した汐莉は、何度かまばたきした。
「まだ契約を交わして1年経っていない……?」
半信半疑の汐莉は戸惑い気味の声を出す。
「天才、ですよね」
そのように悠斗が断言するには理由があった。
精霊と契約を交わすのは10歳前後、遅くとも12歳というのが定説だ。
契約を交わすのが早ければ早いほど、精霊の扱いに長け、優れた精霊使いになる可能性が高い。
血筋的に見れば才能の皆無なはずの悠斗がイフリートを何とか制御できているのは、この要素が大きかった。
6歳のときに契約を交わしているから、10年という経験値があるのだ。
しかし、高城彰はこの定説から完全に逸脱していた。
精霊と契約を交わしてすぐ、幾度も戦火をくぐり抜け、アナスタシア壊滅に一役買ったのである。
精霊使いの常識を鑑みれば、信じられる話ではない。
だが、事実だった。
「第1分校には他にもロシアからの留学生や、藍家の次期当主もいる。いずれ劣らぬ強敵です」
まさか自分と同じく実戦慣れした猛者たちが、汐莉の言葉を借りればプロが数多く参加しているとは、悠斗は思いもしなかった。
なかなか骨が折れそうな大会だ。
「ふむ。日本もなかなか広いということか」
顎に手を当て、汐莉はにやりと不敵な笑みを浮かべる。
それを横目で眺めながら、悠斗は小さく肩を竦めた。
香港軍の動向も含めて、問題が山積しているように思えたからだ。
圧倒的な個の力で相手チームを押し潰す。
それが達也のいるチームの戦い方だった。
とにかく相手チームの選手をばらけさせ、1対1という状況を3つ作り出す。
そうすれば達也、蓮、守のうち必ず2つは勝てた。
2つ勝てば必然的に2対1となるので、その時点で勝利が転がり込んでくるという塩梅だった。
「こんな戦い方をしていたら、決勝トーナメントでは勝てないぞ!」
どうしたって、達也の口調は批難するものとなってしまう。
一体何のためのチーム戦だというのだろうか?
これでは個人戦と変わらない。チームを組んでいる意味がまるでないのである。
「もとよりチームとして戦うつもりなどない!」
詰め寄ってきた蓮の凄んだ顔が視界いっぱいに広がる。
「てめえ!」
意地でも目を合わせ続け、達也は一歩も譲らない。
「虹七家の、紫家の名にかけ、決して負けはせん!」
そこには紫家に名を連ねるものとしての強烈な自負があった。
代表決定戦で古式愛李に敗北を喫したことは、蓮の矜持をおおいに傷つけるものだ。
絶対にあんな失態を繰り返したりはしない。
蓮の双眸には悲壮なまでの決意が宿っていた。
「ぬっ……」
納得はできないが達也は自制せざるをえない。
自分にそこまでの覚悟はないからだ。
不和と歪みを抱えながらも、達也のいるチームはグループリーグ最終戦に勝利し、決勝トーナメント進出を決めた。




