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第1部 エピローグ

   5月5日


 4人は新幹線のホームに立っていた。


「またグリーン車か。紅家、いや虹七家の経済事情はどうなってるんだ……」


 汐莉は手渡されたチケットを見てやや鼻白んだ。


「まだ少し時間があるから、何か買ってくるよ」


 ホームの売店に向かうフリをして、悠斗は3人から目の届かない位置まで離れる。


「そういえば今年も、もうそんな時期ですか」

「待ち伏せとは人が悪いな、日南さん」

「それこそ人聞きが悪いですねえ」


 相変わらず日南は片頬を歪めた薄気味の悪い笑い方をする。


「毎年、悠斗君はこの時期に行うんですねえ」

「で、何の用だ?」

「私は別の用事でたまたま見かけただけですよ?」

「虹七家のエージェントながら、その実、首相直属の精霊レンジャー課の課長でもある日南巧がたまたま見かけた、ね」


 悠斗は嫌味をたっぷりとかけて言った。


「全てお見通しでしたか」

「日南さんも虹七家の依頼人なら、虹七家の諜報力は知っているだろう?」

「これは迂闊でした。今日は報告に来ただけですよ。江東の虎の件は片付いたことを」

「そうか」


 そういえば悠斗は生死を確認していない。


「安心してくれていいですよ」

「わかった。俺の行き先は毎年恒例の場所だ。イフリートと亡命したりしないから、そっちも安心していい」

「それはそれは」

「子供のお守も大変だな」


 ちょうど自分が乗る予定の新幹線が来たので、悠斗は手をヒラヒラさせて日南と別れた。


「あれがダーリンの上司か」

「壬生先輩、見てたんですか?」

「嘘がみえみえだ」

「かないませんね。わざわざ行き先を確かめに来たようです」


 どちらの立場なのか、悠斗にはわからない。


「そうか」


 汐莉はそれ以上は聞いてこなかった。


「あの、お兄様。その行き先というのは、どちらなんですか?」


 学園に行くわけでもないのに悠斗が制服で出かけようとしたのを見て、そそくさと織姫も制服に着替えたのだ。


「なんだ、織姫さんはわからなかったのか?」

「確かに悠斗さんの大事な人達よ」


 汐莉と愛李は目的地がわかったらしい。


「うう……」


 織姫は何だか2人に水をあけられた気分だった。


「行けばわかるよ」


 悠斗はぽんっと織姫の頭に手を置き、そっと撫でた。

 3人は名古屋駅で新幹線を降りて、地元の私鉄沿線に乗り換えた。

 それから小一時間ほど電車に揺られ、普通電車しか停車しない駅で下車する。


「もう少ししたら、落ち着けるから」


 悠斗は3人を先導しながら歩いた。徒歩で15分ほどの距離だ。わざわざタクシーを使うほどではない。

 とある一軒家の前で悠斗は歩みを止めた。


「ここで一休みしよう」


 ごく自然な仕草で悠斗は鍵を取り出して玄関を開けてしまう。

 そう、まるで長年住み慣れた自分の家のように。


 汐莉と愛李は驚かない。

 織姫は唖然として表札を確かめた。


井崎いざき……?」


 織姫には全く聞き覚えのない苗字だった。

 悠斗達3人が玄関をくぐったので、怪訝に思いながらではあるが織姫も続いた。


「あの、お兄様、この家は?」

「ん? ああ、心配しなくていいよ。俺の家だから」

「……、…………、………………、……………………え?」


 織姫は軽く混乱した。


「えっと線香とロウソクは、と」


 その間にも悠斗は何やら準備をしているし、愛李はお茶を入れていた。


「これは小さい頃のダーリンだな」


 汐莉は写真立てに飾ってある写真を見てにんまりしていた。


「ちっちゃい頃の悠斗さんかあ。可愛いですね」

「古式さん、男の子に可愛いは褒め言葉ではありません」

「そうなの? この隣にいるのが、ゆりあさんね」

「ああ、妹のね」


 どことなく悠斗は儚げな面持ちになった。

 会話の一部始終を聞いて、やっと織姫は思い至った。


――ここは紅家に養子に入る前の悠斗の家なのだ!


 あの写真の家族が過ごした場所。

 暖かい家庭があった場所。


 それらは10年前に住処こそ残ったものの、永遠に失われてしまった。

 織姫は胸が苦しくなった。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


 悠斗に促され、3人は立ち上がる。どこへ向かうのか、今度は織姫も察した。

 これから向かう先には、確かに悠斗の大事な人達がいる。

 途中、近所の花屋に立ち寄った。


「あら、悠斗ちゃんじゃないかい。久しぶり」

「お久しぶりです」

「いつもの花ね?」

「はい」


 どうやら悠斗の馴染みの店のようだ。


「あの、お兄様。私が払います」

「織姫……」

「払いたいんです!」

「わかったわかった」


 悠斗はぽんっと織姫の頭に手を置き、そっと撫でた。


「はい、出来たわよ。悠斗ちゃん、また帰っておいでね」

「ええ、また来ますよ」


 悠斗は花束を受け取ると、一礼して歩き出した。

 道行く人々と悠斗は軽く挨拶を交わしている。織姫はそういうのを見ると、ここは悠斗の本当の地元で、自分は兄の事をあまり知らないということが身に染みた。


 やがて、墓地に到着する。

 井崎と彫られた墓石に悠斗は水をかけた。

 花は織姫、汐莉、愛李の3人で供える。


「「「はじめまして」」」


 挨拶をして3人は両手を合わせて黙祷した。


「俺の家族に会って欲しかったんだ」


 悠斗は穏やかな顔で続けた。


「3人とも、今の俺にとって大事な人だからね」

「お兄様!」「ダーリン」「悠斗さん……」


 3人は感極まって目が潤んだ。

 悠斗達の学園生活は、まだ始まったばかりである……。

 まずは謝辞を。

 ここで一区切りです。

 ここまでで文庫1冊分の分量です。

 無料とはいえここまでお付き合いして下さった皆様、本当にありがとうございます<(_ _)>

 賢明な皆様なら勘付いてらっしゃると思いますが、この話は某ライトノベル新人賞に応募して一次審査落ちした(泣)ものを大幅に書き換えたものです。

 どこのレーベルかは言いませんが。

 そういう土台があったから、毎日投稿出来たのです。

 この話を読んでくれている方は、恐らく魔法の仕組み? 設定? が『スッキリ』したものだから読んでくれていると思います。

 オイラもそう思ってます。評価シートには残念なことが書かれていましたが……。

 話が面白いから読んでいる、という方がいたら感謝の念に堪えません。


 毎日投稿していたせいかアクセス数が1日100人以上でしたので、ゆるゆると続けていこうかと思っています。

 文庫1冊ぶんの分量が用意できる目途が立ったら、第2部を投稿していく予定です。

 ここの活動報告と、あらすじで第2部開始の予定を報告をさせていただきます。

 それでは、いつの日かまたお会いしましょう。

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