第4章 ゴールデンウィークの出来事 ~その6~
「達也、お待たせ」
「話は済んだのか?」
「ええ。好きなだけ無料で食べていいわよ」
「マジか……」
達也が度胆を抜かれている間にも、豪勢な中華料理がテーブルの上に所狭しと並べられていく。
「さあ、遠慮なくどうぞ」
すでにシャルロットは北京ダックに手を付けていた。
どれも達也はお目にかかったことがないので、とにかく海老の皿から手を伸ばしていく。
「日本人は海老が好きね」
「そ、そういうわけでは」
「ところで達也」
「?」
「最初に会ったとき、ずいぶん悩んでいたみたいだけど解決したの?」
「それは……」
達也の箸が進まなくなる。
「何の悩みか知らないけれど、私は達也に助けられた。それは忘れないでね」
シャルロットのその言葉で、達也は心のつかえが取れたのだった。
5月2日
「あの悠斗さん、明日の休みは空いていますか?」
「古式さん……」
無論、空いていた。特一級精霊使いとして多忙な悠斗に、友達を作るという発想はない。
つまり特一級精霊使いの仕事が無ければヒマである。
それに愛李との買い物する約束も覚えていた。
「買い物、だよね」
「はい。明日、買い物に付き合ってください」
全身に緊張の色をたたえて愛李は誘う。
別に買い物に付き合うくらい、普段なら悠斗は二つ返事で了承するところだ。
だが現在は『江東の虎』が悠斗の事を狙っている。
――巻き込んでしまうのではないか?
そんな懸念が拭えない。
「駄目……、ですか?」
よほど渋い顔をしていたのだろう。愛李は上目遣いで悠斗の顔を覗き込んでいた。
「織姫のことを気にしているんですか?」
「え? あっ、そうか。それもあるね」
たまらず悠斗は吹き出した。傍から見れば、そんな風に映ってしまうのか。
ウンディーネの一件で愛李には借りがある。悠斗は正直に打ち明けることにした。
「古式さんとの買い物なら万難を排してでもご一緒したいところだけど、江東の虎の動きが掴めない。古式さんを巻き込んでしまうかも」
「それは本当に万難ですね。でも大丈夫、私が悠斗さんを守ってあげますから」
愛李のこの言葉は現実のものとなる。
5月3日
「お兄様! 愛李とデートするというのは本当なんですか?」
「デートって。一緒に昼を食べて、そのあと買い物に付き合うだけだよ」
「それをデートって言うんです!」
「そうなのか?」
どうもその辺りの感覚が悠斗には欠落していた。
「じゃあ、行ってくる」
「もう!」
むくれる織姫を置き去りにして、悠斗は家を出た。
待ち合わせとなっている駅前へ向かう。その駅から直通で行けるショッピングモールがデートの目的地だ。
複合施設で一通りの店舗が揃っているため、手頃なチョイスといえた。それに人混みの中なら安全だろうという計算もあった。
それは完全な誤算に終わるのだが……。
「悠斗さん、待たせてごめんなさい」
「いいよ。俺も、今着いたばかりだから」
「まだ15分前なのに」
「ま、まあ女の子を待たせるのはね」
妹が口うるさかったから早めに家を出た、とは口が裂けても言えない。
「行こうか」
「はい」
2人は仲睦まじくショッピングモールへと足を運んだ。
悠斗と愛李が散策している様子を、織姫はこそこそ隠れて窺っていた。
「後を付けるとは、あまり感心出来ないな」
「織姫さん、本当にお兄さんのことが好きなのね」
ふいに織姫は背後から声をかけられた。
「蒼会長に壬生先輩……。どうしてここに?」
「ダーリンの護衛だ」
別に頼まれたわけではないが、汐莉は遠巻きに護衛することにした。壬生家としての仕事でもある。
「私は2人で買い物しているように装うためよ。汐莉1人だとストーカーに間違えられかねないから」
「だから堂々と尾行している」
「うっ……」
織姫は言葉に詰まる。
「じゃあ、3人で行きましょうか? 私は本当に買い物もしたいし」
茉夏が織姫に助け船を出した。
「はい! ありがとうございます!」
美少女3人が揃って行動すると、別の意味で目立ってしまうが……。
悠斗と愛李がモール内に店舗を構えている、イタリアンのファミレスに入った。当然、3人娘も追いかけるように同じ店に入る。
「私は和食のがいいのだが……」
「汐莉、護衛が対象から目を離していいの?」
「そうですよ、壬生先輩」
護衛の意見はごく自然に却下された。
「ずいぶん楽しそうにしているけど、悠斗君は古式さんのことが好きなのかしら?」
茉夏が小首をかしげた。
「そ、そんなことはあり得ません!」
兄と友人の恋愛を全力で否定する酷い妹だった。
「その通りだ。ダーリンは私に惚れているのだからな」
「それも違います!」
「何だと? この小姑め!」
織姫と汐莉が火花を散らすのだった。
「なにか騒がしいようだけど……?」
「なんだろうね?」
悠斗は察しがついていたが、素知らぬふりを決め込んだ。
「ここは俺が払うよ」
早くこの場を離れたかったので、悠斗は伝票を手にして席を立った。
その後も2人はショッピングモール内の店舗から店舗へと渡り歩いた。その間、愛李が気になった商品の前で立ち止まる度に、
「買ってあげようか?」
悠斗は微笑んで奢ろうとする。
もちろん愛李は嬉しかったが、財布代わりに買い物に付き合ってもらったのではないのだ。
「いいです」
はっきりと愛李は断り、悠斗の手を握りしめた。手を繋いでショッピングモール内を歩く。腕を組むほど親密な関係でないのが残念だ。
それでも愛李の胸の鼓動は速くなる一方だった。
「こういうときに、どうしたらいいのか、わからないんだよね」
照れ臭そうに、悠斗ははにかんだ笑みを浮かべた。それは年相応の少年のものだ。
「古式さんには助けてもらったのに……」
「そんなのお互い様よ。悠斗さんがいなかったら、今頃こうして買い物なんてしていられなかったかもしれない」
「俺がいて、あのザマさ。古式さんがいてくれて、本当によかったよ」
「悠斗さん……」
互いに見つめ合い、2人の視線が絡み合う。2人きりなら、ここでキスでもしてしまいそうなムードだった。
そんないいムードに水を差す、無粋な人物がいた。




