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第4章 ゴールデンウィークの出来事 ~その3~

「な、なんだよ?」


 悠斗と汐莉、そして3人組が散々罵声を浴びいせていた少年少女達の前にやってくると、それだけで嘘のように大人しくなる。


「表に出ろ。ここだと食堂の人達の迷惑になる」


 2人同時に悠斗は少年の襟首を掴み、強引に外に連れ出す。3人組もそれに倣った。


「ちょ、ちょっと」


 残った少女達が止めようとするも、


「私としては、ここで暴れても構わないのだがな」


 と汐莉が刀に手をかけると、ぎょっとして食堂から出ていく。


「ダーリンの面子を潰すわけにはいかないからな」


 一礼して、汐莉も表に出た。






 虹七家御用達の老舗旅館だけあって、おあつらえ向きに精霊使い専用のグラウンドが完備されている。


「ば、馬鹿にするなよ。精霊魔法の勝負なら、お前ら部外者と落ちこぼれなんかに負けるはずがない」


 模擬戦が行われようとしていた。


「壬生先輩は関係無いから、参加しなくていいですよ」

「ダーリン、それだと4対10になる。さすがに厳しくないか?」

「それぐらいで勝たないと、あいつらは多分わからないですよ」

「なるほど、文句を言わせないためか。わかった」


 汐莉はすんなりと聞き入れた。

 互いの陣営の準備が終わり、正面から向き合う。悠斗達は人数が少ないため、やや密集体型気味だった。それに対し虹七家の10人は半円で囲むような陣形を組む。


「壬生先輩、合図を」

「わかった」


 悠斗に促されて汐莉は右手を挙げ、


「はじめ!」


 勢いよく振り下ろした。

 一斉にグラウンド上の全員が印を結び始める。


「当然だな」


 まず悠斗の防御魔法が展開したのを見て汐莉は頬が少し緩んだ。

 5本の火の柱フレイムピラーが悠斗達を護るように立ち上った。虹七家の少年少女達が放った精霊魔法は、その悉くが火の柱を貫けなかった。

 3人組の精霊魔法はまだ完成しない。


「な、何をしているんですか?」

「織姫さん、来たのか」


 今頃?

 やや織姫を見る汐莉の目に蔑みの色が浮かぶのも無理なかった。


「白熱の模擬戦さ」

「お兄様が防戦一方だなんて」

「恐らくダーリンは防御魔法しか使わない気だな」

「どうして?」

「あの3人組に花を持たせたいのだろう」


 3人組の精霊魔法はまだ完成しない。

 それは一番強力な精霊魔法を放とうとしているからに違いない。汐莉にはそれが容易に想像できた。


「織姫さん、もしものために防御魔法の準備を」

「はい」

「タイミングは私が指示する」


 汐莉は模擬戦に集中する。

 いよいよ3人組の精霊魔法が完成した。汐莉の予想通り強力な精霊魔法が放たれる。泡を食って虹七家の少年少女達は防御魔法を展開するも、とても防げそうにない。


「織姫さん、今だ!」


 汐莉の合図で、織姫は狙われている少年少女5人の前に防御魔法を展開した。


氷の岩石フローズンロック!」


 見事に織姫の氷の岩石が精霊魔法を弾く。


「そこの5人、すぐにグラウンドから出るように」


 汐莉に言われた通り、すごすごと5人がグラウンドから退場する。


「やるじゃないか」


 一度に5人も倒す望外の戦果に悠斗は目を瞠った。


「あんたに言われて、俺達なりに努力したんだ」

「もう、お荷物なんかじゃないな」

「最高の褒め言葉だ」


 再び3人組の精霊魔法が炸裂し、勝負はついた。


「文句があるなら、いつでも相手になるぞ」


 決め台詞を吐いて、悠斗は胸がスカッとした。3人組とハイタッチを交わし旅館に戻る。

 今夜は気持ちよく眠れそうだった。






   4月30日


「ふあ~あ、もう朝か」


 悠斗が目を覚ますと、隣で汐莉が寝ていた。


「あ~、壬生先輩起きて。もうすぐ朝食の時間ですよ」


 だが、どうして一緒の布団で寝ているのだろう?

 しかも汐莉は全裸で、だ。


 悠斗は全く覚えがなかった。せっかくなので、じっくりと観賞させてもらう。やはり胸の大きさは……。


「ダーリンのエッチ」

「……一応、男の子ですから」

「なのに裸の女の子を前にして、何もしないと?」


 妖艶に微笑んで汐莉は悠斗の体に絡みつく。


「柔らかい……」

「なんだ! その感想は?」

「だって!」

「これだから童貞は面倒くさいな」


 トドメだった。悠斗は色々と萎えてしまった。


「せっかくロビーからスペアキーを拝借してきたというのに」

「おい!」

「だって私はダーリンの護衛だぞ!」

「この旅館にいる限りは大丈夫なはず、多分……」


 屈強の警備が十重二十重に旅館を囲っている。軍隊でもなければ、旅館に攻め入るのは難しい。


「まあ、いいじゃないか」

「そりゃいいですけどね」


 まだ時間的に余裕があったので、2人はだらだらと過ごした。しかし、決して悠斗は汐莉に手を出さない。

 そうしていると、コンコンとドアをノックする音がした。


「お兄様、起きていますか?」


 織姫が起こしに来たのだ。

 なんとなく悠斗は億劫になり返事をしなかった。こんなことは今までにないことだ。


 ただ疲れていただけかもしれないし、昨日の一件から虹七家の人間が煩わしく感じられたのかもしれない。

 織姫も生粋の虹七家の人間だ。


「いいのか、ダーリン?」

「たまには俺だって、嫌気がさすこともありますよ」

「ずっと、抱え込んできたんだものな」


 汐莉は悠斗をぎゅっと抱きしめた。


「壬生先輩……」


 久し振りに、本当に久し振りに悠斗は安らぎを得ていた。


「な、なにを、なさって、いるんですの?」


 驚愕のあまり織姫の声は震えていた。


「あ~、すまんダーリン。鍵をかけなかったんだ。何かあったら逃げられるように」

「ええっ!?」

「だからといって、勝手に部屋に入ってくる小姑も小姑だが」


 汐莉は不敵な面構えをしていたが、悠斗は嫁に浮気現場を目撃された夫のように錯乱していた。


「これには深い事情があってだな?」

「ダーリン。言い訳がテンプレになっているぞ」

「言い訳って。壬生先輩とはしてないから! 目が覚めたら隣で寝てたんだって!」


 よく考えたら悠斗が慌てる必要はどこにもなかった。

 汐莉と関係を持ったとしても、責められるいわれはない。

 織姫は妹なのだから。

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