第4章 ゴールデンウィークの出来事 ~その1~
4月28日
ゴールデンウィーク初日。
どういう理由か知らないが、今年のゴールデンウィークは特一級精霊使いとしての任務が入っていなかった。
なので悠斗は自宅でくつろいでいた。
そんな折、携帯が鳴った。
着信を見ると汐莉からである。無視すると後が怖いので、悠斗は律儀に電話に出た。
「今からすぐ生徒会室に来い。話がある」
それだけ告げると汐莉はさっさと電話を切ってしまった。妙に切羽詰った感じだったが……。
「仕方ないな」
溜め息を吐きつつ、悠斗は出かける準備を始めた。こういうときは私服でも構わないと思うが、無難に制服を選んだ。
「お兄様?」
玄関で靴を履いていると、織姫に見つかった。
「今から学園に行かれるのですか?」
「ああ。壬生先輩から連絡があった」
何の用事かは聞かされていない。考えてみればヒドイ話だ。
「織姫も一緒に来るか?」
悠斗はぽんっと織姫の頭に手を乗せ、そっと撫でた。
「はい!」
断る理由はどこにもない。織姫は勢いよく返事をし、すぐさま支度に取り掛かる。
こうして学園までの、すでに通いなれた道を2人並んで歩くのだった。
そして生徒会室へと足を運ぶ。
「来たか。まあ座ってくれ」
汐莉に言われた通り、悠斗と織姫は適当な席に腰を落ち着ける。
「壬生先輩、そちらの方は?」
生徒会室には汐莉と茉夏の他にもう1人、車椅子の人物がいた。明らかに学園の人間でないため、悠斗は訊ねた。
生徒会長と風紀委員長が生徒会室に招く人物だから警戒はしていない。
「私の兄だ」
すこぶる端的に汐莉が答える。
「一応、2年前にソウルで会っているんだけどね」
「壬生伊織さん……?」
「覚えていてくれて、光栄だよ」
「ソウルではお互い苦労しましたからね」
自国の危機なのに韓国兵が協力的ではない……、というよりも露骨に嫌悪感を抱かれて非常にやりづらかったのだ。
「そんなに大変だったんだ」
茉夏はソウル防衛戦に参加していないため、その辺りの事情を知らなかった。
「韓国の連中が全くアテになりませんでしたから。この前の台北に比べると、ひどい有様でしたよ」
「まあ、そういうな悠斗君。それより、そろそろ本題に入ろうか」
「どうして自分が呼ばれたのか、ですね?」
「そうだ」
ここで伊織が神妙な面持ちとなった。悠斗は口を閉じて話を聞く態勢になる。
「黄晴信氏のことは知っているかな?」
「ええ。虹七家の集まりでは、よくお世話になっています」
虹七家の中では珍しく悠斗に好意的な人物だ。
あるいは同情されていただけかもしれないが、結果として親しくしてくれたので悠斗としてはどちらでも構わなかった。
虹七家同士で揉め事や利権争いが起きた際、調停役を買って出ることが多かった。
また黄家の全権代理でもあり、虹七家の会合では進行役を務める。
以上の理由から虹七家の誰もが一目置く、扇の要と言って差し支えない重要な人物だ。
「その晴信氏が、つい先日亡くなった」
「――――は?」
悠斗は耳を疑った。
「すまない。自分が護衛に付いていながら、むざむざと……」
「誰に? 晴信さんだって実戦経験の豊富な精霊師です。そんじょそこらの奴に後れを取るはずがない!」
「……『江東の虎だ』」
「! では、これまで多くの精霊師を暗殺していたのも……」
「十中八、九ヤツの仕業だろうね」
「まさかと思っていたが」
衆人環視の目をゲートに引きつけ、その間隙を突いて目的を達成する。
台北では逃走に。
日本では暗殺に。
その手口から悠斗は薄々勘付いていたが、こうして事実を突き付けられると軽いめまいに襲われる。
「そして次が問題なのだが、悠斗君」
「…………はい」
「どうやら江東の虎の一番の標的は、キミのようなんだ」
「そんな! どうしてお兄様が!!」
いきおい口を差し挟んだのは織姫だった。
「悠斗君のことを、とても意識しているような口ぶりだった」
「台北で直接戦ったことがあるが、あのときはいかに足止めするかで精一杯だった」
たったあれだけで、そこまで意識するものだろうか?
「悠斗君の名を口にして去っていったよ。僕のことなんか、まるで眼中になさそうだった」
伊織のその発言で、生徒会室の空気が一層重苦しいものとなる。
台北では悠斗の方こそ、江東の虎の眼中になかっただろう。それが今度は明確な敵意を、殺意をもって立ちはだかろうとしている。
「ふぅ」
溜め息も漏れようというものだ。台北で取り逃がしたのは、どうやら痛恨のミスだったようだ。
「ダーリン、安心しろ。私が護衛に付く」
実の兄の前でダーリンと呼んで大丈夫なのだろうか?
「壬生先輩が?」
「そうだ。時間稼ぎ暗い出来るさ」
「確かに心強いが……」
実際に手合わせをしていて汐莉の強さを悠斗は十分身に染みていた。
「素質は僕よりも上だ。アテにしてもらっていい」
「壬生先輩の強さは、毎日の稽古で体験していますよ」
これは世辞でも社交辞令でもなかった。それに総司は壬生家一の剣豪と言っていたのだ。
「これからはいつも一緒だな、ダーリン!」
「あ、そういうことになるのか」
その点を全く考慮していなかった悠斗だった。どうもこういうことには疎いな。悠斗は苦笑するのだった……。




