間奏 ~その2~
胸に激痛が走った。
見れば心臓がファイティングナイフで一突きされている。
通常なら即死……、なのだが裂かれた傷口は見る間に塞がっていく。
「これは油断しました。まさか、こんなに人気の多い場所で狙ってくるとは」
紅京介は自分を刺した相手を見据えていた。まだ15,6歳くらいの少年である。
「まだ子供じゃないですか」
そんな年齢の少年が暗殺を行っているという事実に、京介は少なからぬショックを受けた。
再び少年はファイティングナイフを振りかざし、京介はその凶刃に晒される。
いくらか裂傷ができるも、やはりすぐに塞がる。
「いけませんね。無防備に攻撃を受け過ぎましたか……」
契約精霊である不死鳥の精霊力が高まっていく。傷口を塞ぐためとはいえ不死鳥の再生能力を行使した影響だった。
火の亜種精霊である不死鳥は破壊と再生を司る。
精霊力が再生能力に使われてる間はいいが、破壊の方向にベクトルが向かうのは好ましくなかった。
しかし不死鳥はウンディーネの一方的な攻撃に腹を立てている様子だ。精霊の格でいえば不死鳥のが上である。
「やるしかありませんね」
不死鳥が暴れ出さないように、精霊力を抑えつつ少年を無力化する。
その作戦は画餅に終わった。
まがりなりにも暗殺者として放たれた刺客である。容易い相手ではないのだ。
「酸の嵐!」
周囲のことなど考えなしに少年は強力な水の魔法を選択する。ファイティングナイフの攻撃が効かないとみるや、精霊魔法に切り替えたのだ。
たまらず京介は不死鳥の力を解放させる。四方にいる人々のことを顧慮した結果だったが……。
「しまった」
たちまち辺り一面が炎の海へと変貌してしまう。再生能力のために高めた精霊力が、そのまま破壊にスライドした。
数多の火の鳥が顕現し猛り狂う。炎による被害は拡大の一途を辿った。
「バ、バケモノ」
炎が少年の前に壁の如く立ち塞がり、逃げることも叶わない。
「どうしたものでしょう?」
京介も事態の収拾に頭を悩ます。
そんなとき、異常な精霊力の高まりを感じた。
あっという間に炎が掻き消える。
少年は脱兎のごとく逃げ出すが、京介は見逃した。どうせ運動不足の自分の足では追いつけない。
「う、うう……」
微かに呻き声がした。
「どこです?」
京介は必死で周囲を探す。こんな惨状の中、生存者がいる。
何としてでも助け出さなければならない。
――子供が1人、生きていた。
近くにある2つの焼死体は、この子供の両親のものなのだろう。
「……………………」
京介は言葉が出ない。
自分が殺してしまった。
この子供の人生を狂わせてしまった。
全て自分のせいである。
京介はこの子供を紅家の養子として引き取ることにした。
それで罪滅ぼしになるとは思わない。
自己満足に過ぎないかもしれない。
メサイアコンプレックスなのかもしれない。
それでも京介は、そうせずにはいられなかった。
今から約10年前の話である――――。




