第2章 精霊学園へようこそ! ~その4~
副会長に呼び出された2人の男子生徒はビクビクしていた。
それは傍から見てもわかるくらいに。
「別に2人を処罰するつもりはないから、そんなに緊張しなくてもいいよ」
てっきり精霊魔法で私闘をしたことを咎められると思っていたので、2人の男子生徒は一気に緊張が解けた。
喉がカラカラだったので、紅茶に口をつける。
「紅兄妹はどうだった?」
総司が2人の男子生徒を呼び出したのは、それを聞くためだ。
「どう、と言われても」
「急に精霊魔法が使えなくなって」
何も出来なくなったのだ。
どう伝えればいいのか2人の男子生徒は困惑した。
「ふむ。精霊力の高まりを感じなかったかい?」
耳触りのよい総司の清涼な声で聞かれ、2人の男子生徒は必死で記憶の糸を手繰り寄せる。
「確かに、あの男の方からプレッシャーを感じたような?」
「圧迫感はありました」
「そうか。やはり精霊力を契約精霊に送り込んだようだな。それで契約者との繋がりを断ち切ってしまう」
そんな力量にまで達しているかと思うと、総司は内心冷や汗が出た。
「副会長?」
「ああ、時間をとらせてすまなかったね。帰ってもらって結構だよ」
「それでは、失礼します」
思案に耽ってしまった総司を怪訝に思いながらも、2人の男子生徒は安堵して書庫を後にした。
総司はティーカップを片付け、世界地図を広げる。地図の中でも中国を中心とした東アジア地域を注視した。
現在、世界はいくつかの勢力に別れていた。東アジア地域は特に顕著で、様々な勢力が混在している。もしかしたら、世界でも一番紛争の激しい地域かもしれない。
2年前に勃発したソウル防衛戦も、朝鮮人民軍を偽ったものではなく中国軍が本格的に参戦してきたら戦争となりかねないものだった。
「微妙なバランスの上に、今の平和は成り立っている」
そんな世界情勢の中、底知れぬ実力を秘めた紅悠斗の存在は影響してくるのだろうか?
しばらく総司は世界地図から目が離せなかった。
だだっ広い演習場で織姫と汐莉は対峙した。
汐莉は腰に帯刀している。
訓練棟の中で最大の面積を誇る大演習場を借り切っての模擬演習だ。
どこからか聞きつけたのか、かなりの数のギャラリーが集まっていた。
大演習場には観客席が設けられており、生徒達は思い思いの席に腰掛けていた。
「織姫、やっぱり俺が」
「昨夜、お兄様は台湾から帰国されたばかりです。無理しないで下さい」
「しかし」
「大丈夫です。私はお兄様の稽古を受けているのですよ?」
織姫の決意は固い。もはや何を言っても無駄だ。
「わかった」
同い年の義理の妹を悠斗は見守ることにした。
ただし、何かあったらすぐに中断すべく精霊魔法を行使できる態勢を整えておく。
「壬生家一の剣豪と『氷姫』の対決ですか。胸が躍りますね」
突如、清涼な声が悠斗の耳朶を打つ。総司が悠斗の横へ並んだ。
「北条副会長、あなたが演習を見に来るなんて珍しいわね」
「氷姫がどんな戦いをするのか、見逃すわけにはいきませんよ、蒼会長」
「第三分校最強といわれるあなたでも、気になるのね」
「最強の看板は下ろしますよ。悠斗君には敵わないですから」
あっさりと総司は認めてしまう。
「そうだ、先日の台湾はお疲れだったね。本当は僕も行く予定だったけど、上からの許可が出なくて」
「北条先輩がいれば、もう少し楽だったんですけどね」
「そうかい? 嬉しいこと言ってくれるねえ」
悠斗と総司は度々、戦場で一緒になる仲だ。まさしく戦友と呼べる間柄だった。
「2人とも、そろそろ始めるわよ」
「はい」
悠斗の顔が緊張で強張ったものになる。
「ああ、始めてくれ」
総司もこれから始まる戦いの激しさを予想し、緊張が走った。
「始め!」
茉夏の合図で、織姫と汐莉の戦いが始まった。
迷うことなく汐莉は抜刀した。織姫は白刃を目にしても怯まない。
「ほう。真剣を見ても動じないか。ならば」
次の瞬間、汐莉が常軌を逸したスピードで織姫に肉迫する。
迅雷――。
雷の精霊カーバンクルと契約している汐莉の特殊技だ。
「おお~っ!」
観客席から歓声が上がった。
「はっ!」
裂帛の気合と共に汐莉が愛刀を振り下ろす。が、織姫の脳天に届く前に阻まれた。
「絶対零度の剣……」
すでに織姫が修得していたことに、悠斗は舌を巻いた。
絶対零度の剣は4本、宙を舞っている。そのうちの2本で汐莉の一撃を防いだのだ。
そして残り2本が汐莉を襲う。
「むっ」
すかさず迅雷を発動させて後方へ跳び、汐莉は間合いを取る。
「悠斗君の妹さん、氷姫はなかなか如才ないねえ」
「ええ、まあ」
悠斗は苦笑するしかない。それでも2人の戦いから視線を逸らさなかった。
汐莉が迅雷で右へ左へと織姫に揺さぶりをかけて刀を振るう。
だが悉く絶対零度の剣に防がれる。
再び距離を置いて汐莉はいかにあの剣の防御をかいくぐるかを考えるが、余裕はなかった。
織姫の絶対零度の剣は時間が経過する度に増殖していくのだ。最初4本だったのが、倍の8本になって織姫を守護するように浮遊していた。
「このままでは、ジリ貧だな……」
迅雷もずっと使える代物ではない。せいぜいあと1、2回が限度といったところだった。
汐莉は勝負に出ることにした。己の愛刀に精霊力を練り込む。丹念に、丹念に。
やがて汐莉の愛刀が雷を帯びて青白い光を発する。
「雷神剣……」
そして突きの構え。絶対零度の剣の防御を突き破ろうというのだ。
だんだん文章がひどいことになっていく……。




