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第2章 精霊学園へようこそ! ~その3~

 新入生総代である織姫の宣誓で始まった入学式。

 その後に行われたホームルームもつつがなく終了し、悠斗は帰途に着く準備をしていた。


「お兄様……」


 残念、かどうかはともかく織姫とはクラスが別れてしまった。

 織姫は不満を露わにしたが、いくら紅家の跡取りとはいえこればかりはどうしようもない。


 その違うクラスの織姫が、わざわざ悠斗のクラスまで迎えに来た。

 別段、問題はない。


 中学の頃は清楚な顔立ちで人目を引く美貌の妹が訪れると、いつも教室が騒然としたものだったが問題というほどではない。

 しかし、今回はそれとは比較にならないくらい騒々しかった。


 なぜか?


 織姫は1人ではなく、2人の女子生徒と一緒だった。この2人も織姫に負けず劣らずの器量よしである。騒ぎになるのも致し方ない。


 悠斗も唖然として自分の席に座ったまま動けなかった。

 だが、この2人が問題なのだ。


「私は風紀委員長の壬生汐莉だ。よろしくな」

「生徒会長の蒼茉夏よ」


 順番に自己紹介されたが、どうして織姫がこの2人を連れているのか悠斗はわからなかったし、自分に声をかけてきた理由はもっとわからなかった。


 悠斗が説明を求めるような視線を投げると、織姫は困ったようにおたおたしてしまう。


「あの、お兄様。お2人が私に生徒会に勧誘してきて、それで……」

「織姫は新入生総代だから、別におかしな話じゃない」

「はい。ですが突然のことだったので、お兄様に相談してから返事をさせていただくと言ったんです。そしたら」

「一緒についてきた、という次第だ」


 言い辛そうにしている織姫に代わって、汐莉が説明を引き継ぐ。


「織姫さんには生徒会に入ってもらう。そして悠斗君には我が風紀委員に入ってもらいたい! どうだろうか?」

「いや、どうだろうか? と言われても」


 まさか自分が勧誘されるとは思っておらず、悠斗は戸惑った。


「君なら即戦力間違いなしだ!」

「あの、風紀委員の勧誘ですよね」

「無論だ。すぐ精霊魔法をぶっ放すバカな生徒をボッコボコに……、もとい制止させるにはそれなりの実力が必要だ」

「なるほど……」


 えらく不穏当な発言があった気もするが、言いたいことは伝わった。ちゃんと筋も通っている。


「申し訳ありませんが、お断りします。忙しいもので」


 だが悠斗は断った。

 織姫が生徒会に入るのは構わないが、自分が目立つのは契約している精霊の都合上、あまり好ましくない。

 日南曰く、我が国の最重要機密なのだ。


「余計な心配しなくていいそ? 特一級精霊使いとしての職務を優先してもらって構わない」


 さっと悠斗の膝の上に腰掛け、汐莉は嫣然と微笑んでみせた。セクシー担当の面目躍如だ。


「…………っ!!」


 悠斗は全身が固まった。緊張のあまり、織姫の目つきがヤバイことになっているのも気付かない。


「ちなみに、あなたの契約精霊も私たちは知っているわよ?」


 茉夏は生徒会長らしい貫禄のある余裕を見せる。


「蒼家と壬生家の人間なら、知っていて当然か」

「ええ。虹七家にいいように使われていることもね」

「生徒会長なだけあって嫌な言い方を心得てますね。……あの、壬生先輩、そろそろ」


 膝から降りて欲しかった。ずっと近くで見つめられて、息が詰りそうだ。


「そろそろ風紀委員に入りたくなったか?」

「それは……」

「む。では、これならどうだ?」


 だしぬけに汐莉は刀を振るっている割に、たおやかな両腕を伸ばし悠斗の首に絡みつける。

 そのまま身動きの取れない悠斗の唇に汐莉は自分の唇を重ねた。


 周囲の空気が一瞬、ぴたりと止まった気がした。

 悠斗はすぐに息苦しくなる。

 しかし汐莉はなかなか唇を離さない。


「ぷはっ」


 はあはあ、と悠斗は勢いよく息を吸い込む。さほど時間が経っていないのに、心臓が破裂しそうなくらい動悸が激しい。


「風紀委員に入ってくれたら、続きをしてもいいぞ?」

「なっ! どうして、そこまで……」

「2年前のソウル防衛戦で貴様の戦いぶりを目の当たりしてから、ずっと意識していた。同世代に、こんなスゴイ奴がいるのかとな」

「壬生先輩も参加していたのか」


 小さくない驚きが、悠斗の中に芽生えた。


「実戦に出たことがあるのが、自分だけと思うなよ?」


 凄味をきかせた声で、汐莉は威圧する。並みの生徒なら気圧されてしまうだろうが、悠斗には通用しない。


「だからといって、風紀委員に入る理由にはならないですよ」

「それもそうだ。なら、せめて1度だけでいい。私と戦ってくれないか?」


 汐莉の提案に、そちらが真の目的かと悠斗は悟った。

 別にそのくらいなら。悠斗が色よい返事をしようとしたとき、


「お兄様の代わりに、私が戦います!」


 めらめらと闘志を燃やした織姫が割って入ってきた。


「紅家の次期当主にも確かに興味はあるが、私が戦いたいのは紅悠斗なんだ」

「私に勝ったら、お兄様を好きにしてもらって構いません!」

「そうか! それならば問題無い。その勝負、受けよう」


 汐莉と織姫が火花を散らす。


「問題大アリだよ! 勝手に話を決めるな!!」


 何で蚊帳の外になるんだ?

 悠斗が不平を鳴らすも完全に無視されている。


「織姫さんの気持ち、私にもわかります」


 先ほどから離れて様子を見ていた愛李が悠斗の傍に寄り添っていた。愛李は悠斗と同じクラスになったのだ。


「随分と、モテるのね」


 形式上は模擬戦になるので訓練棟で2人の対決は行われる。

 ガックリと肩を落としながら訓練棟へ向かう悠斗の後ろ姿を視界に捉え、茉夏は感心したように呟いた。






 精霊学園第三分校のさびれた第一図書室に隣接した書庫がある。

 そこをまるで自分の部屋のように使用している人物がいた。


 生徒会副会長の北条総司ほうじょうそうじである。

 図書室は他に2ヵ所あり、精霊学園の生徒は間違いなく比較的新しいそちらを利用する。


 わざわざ埃の積もった第一図書室を使用する奇特な性格の持ち主は、精霊学園にはいなかった。


 その隣にある書庫も同様だ。そこに目を付けた総司は私物を持ち込み、自分の根城にしてしまった。

 白いテーブルクロスをかけた食台に、紅茶を入れたティーカップが3つ置かれていた。


「かけてもらって構わないよ」


 総司は清涼な声で促した。

 柔和な笑顔を絶やさない。

 書庫に入って棒立ちのままでいた2人の男子生徒は、顔を見合わせてから恐る恐るイスに座った。

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