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翡翠の乙女と双頭の紅獅子  作者: 棗健
エピローグ
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77/78

18-1

夏空眩しく、晴天が眩しく辺りを照らす。仰々しい空気で皆忙しく駆け回り、会場は主役の男を待ち侘びている。

僕は控え室の扉を叩き、中へ入った。


「おはよう咬介。準備はできてるみたいだね。まもなく始まるから、呼びにきたよ」


咬介は欠伸をしながらかったりぃ、と零し立ち上がる。まぁそう言わずに、と背中を押しながら忘れ物がないかチェックする。


「咬介、これ……」


おずおずと、こちらを伺うように美夜が黒烏刀を両手に持ち咬介に渡した。咬介はああ、と言って受け取ると、慈しむような目で美夜を見つめる。僕はその様子を、温かい気持ちで見守った。


「まったく、剣舞の練習してるところなんて一度も見てないけど、無事に出来るんだろうね?」

「当たり前だろ。こんなのは適当にやればいいんだよ。美夜、お前も客席から見とけよ」

「……あ、私は……まだ……」


美夜は顔に影を落とす。自分が無意識下で周りの人間の生命力を蝕んでいると分かってから、人の多い場所へ行くのにはまだ抵抗があるようだ。今日も彼女を説得し、控え室からは出ないで僕と咬介の二人にだけ会ってくれると言う妥協案で白夜会に来てくれることになったのだ。


「美夜、折角綺麗な着物を着せてもらってるのに、君を皆に自慢できないのが悔しいよ」

手を取り微笑むと、苛立ったのか咬介が無理やり間に入ってきて睨む。僕は笑いながら言う。


「大丈夫だよ咬介。僕はもう二人の間を邪魔しない。約束しただろう。僕は美夜を迎えに行けなかった。だから、潔く身を引くよ」



美夜がいなくなったあの日、咬介は母君の墓前に、そして僕は海へと美夜を捜しに行った。誕生日に美夜と共に行こうと約束していた、二人だけの秘密の場所だったからだ。


だが、そこに美夜の姿はなかった。ただ光を反射し燦然と輝く海がどこまでも広がり、取り残されるように立ち尽くした。


───美夜の身も心も、僕には捕まえられなかった。

あの時、僕は不思議と咬介なら美夜を見つけることができて、連れて帰ってくるだろうと確信していた。そして二人が幸せに過ごす未来を尊重し、邪魔することなく見守ることを誓ったんだ。


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