17-3
電車に乗り、乱暴に席に座ると、嘘のように晴々とした空が後ろヘ後ろへと流れて行く様を見送る。焦っているはずなのに、不安と心配でどうにかなってしまいそうなはずなのに、それでも何故だかわからないが美夜があの場所にいるような確信があり、電車に揺られている間は落ち着いていることに気づいた。
目的の場所まで近づくにつれ逸る気持ちを落ち着け、ようやく目指していた駅に着くと、急いで降り歩き慣れた道を辿る。小高い丘にある、小さな墓園。母が埋葬された場所だ。見ると、その墓石の前で座っている人物がいる。
「おい」
声をかけると、びくっと肩を震わせ美夜が振り向いた。憔悴しきった顔つきだったが、俺を見て驚いているようだった。
「……咬介……どうして……ここが……」
墓前には、今しがた用意したような摘みたての百合の花と、自身が贈った指輪が置かれている。
───母さんに返したつもりか───
つかつかと歩み寄り指輪を掴むと、ぶっきらぼうに目の前へ突き出す。
「これはお前に渡したものだ」
美夜は気まずそうに俯き、拳を胸の前で硬く結び逡巡した後、意を決したように述べ出す。
「……私には受け取る資格がないから……」
美夜を見つけた安堵感と、それなのに未だ迷い覚悟を決めようとしない彼女に苛立ち、強引に左手を掴むと無理やり指輪をはめようとする。
「あっ……!駄目、咬介!」
左手の薬指に落ち着くと、まるではじめからそこにあったかのように自然にきらきらと輝いた。困ったような表情を見せる美夜に俺は、
「この指輪はもうお前のものだ。翡翠の乙女としての宿命も、全部まとめて背負ってやるから戻ってこい」
俺の言葉に、ほろり、と美夜の瞳から涙がこぼれ落ちた。凍てついた心を溶かすような言葉を噛み締めながら、それでも美夜は返す。
「……私と一緒にいたら、不幸になるわ」
「ならねぇよ。獅子の眼を持つ者は奪われないって、今まで共に居て理解しただろうが。憂介だって開眼してる。問題ねぇ」
「……兄様も憂介も、病気になった。星の呪いが貴方をも蝕む」
「だからなんだ」
「なんだって……咬介もきっと発症する!私といることで、生命を削られてしまう!それだけは嫌なの!」
堰を切ったように泣きだす。何を言っても聞く耳を持たないほど取り乱した美夜は、もつれた足を動かしてその場から去ろうとする。
腕を掴もうとしたがすり抜けられた。だが今度こそ逃さまいと、反射的に美夜!!とその背中に向け叫んだ。怒号を孕んだその声は、一瞬美夜の動きを止め、硬直させた。
───絶対に、連れて帰る。二度と俺の側からいなくなることを、許してなるものか。
そして丘の段壁ギリギリに立った。今にも崩れ落ちそうなその場所は、段壁の下は木々に覆われ高く、落ちたりしたら死を免れないほど危険だ。こっち見ろよ、と投げかけ、不安定な足場にいる状態を見せると、美夜は顔を青くしこちらを見据えている。
「お前と一緒にいると不幸になるって?死ぬだと?莫迦莫迦しい。なら、今から俺は自分の意思でここから飛んでやる。それで死んだって、それはお前の所為じゃねぇ。それで証明になるだろ」
ガラ……、と足元の石が音を立てて転がり落ちていった。足場は見た目以上に不安定で、今にも崩れてしまいそうだ。恐ろしい提案と脅しに、顔を引き攣らせ制止しようとする。
「……冗談よね?止めてよそんなこと……」
「本気だ。……今まで楽しかったぜ。じゃあな」




