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車に乗り込み、運転手に行き先を告げてできるだけ急ぐように頼んだ。
「───剣妖の目的が美夜ってのはどういうことだ」
咬介の問いに、僕は歴代当主の側近や伴侶として支えてきた翡翠の乙女と呼ばれた者たちにおける、歴史と見解を述べた。
「───翡翠の乙女が持つという星の祝福っていうのは、強すぎる加護のようなものだ。そしてその力は、毒にも薬にもなる。一部の者には栄華と繁栄をもたらす一方、強すぎる力で周りの者たちを破滅へと導くこともあるんだ」
「───質問の答えになってねぇ。さっさと要点を纏めろ」
「……つまり、美夜という星の祝福を持つ存在がいることで、君は武力も生命力も増幅され力を発揮できた。歴代当主達もそうだ。……だが、それは美夜が溜めた力を受け取り発揮しているにすぎない。───美夜は、周りの人間から無意識のうちに生命力を奪っているんだ」
咬介は黙ったまま、話を聞いている。
「美夜のお兄さん、僕、ひいては美夜の両親もそうだったかもしれない。枯渇血病という不治に近い病気を発症させられた。……彼女と共に居る近しい者たちは、本来持っていたはずの生命力やその根幹となる血が、彼女がもつ星の力によって徐々に吸い取られていたんだ」
この事は一族の絶対的な秘密として隠されていた事実であり、先日、父の書斎にあった文献により知った。僕は話を続ける。
「そうやって周りの人間から生命力を蝕み、溜め、そしてその力を受け取り発揮できるのが、獅子の眼を持つ歴代の紅獅子の当主たちだけだった───。翡翠の乙女が紅獅子を栄えさせるんじゃない。選別され、選ばれたごく僅かなものだけがその力を発揮できていたんだ……いつの時代も」
咬介は愕然としながら話を聞いている。僕だって、こんな残酷な真実は信じたくはなかった。だが紅獅子の血縁者は代を経ることに数を減らし、特に翡翠の眼を持つものが現れたときに原因不明の病で亡くなっていることが多い。もしかすると歴代の当主達はこのことを知っていて、それでも己が力を得る為に周りを生贄に捧げてでも星の力を利用していたのかもしれない。
車がようやく屋敷に到着すると、急いで中に入った。そこで僕と咬介は、美夜に対峙している珠代さんの姿に気づく。
「美夜!離れて!こっちに来い!!」
僕は叫ぶ。珠代は目線をキッと吊り上げ一瞬の隙をつき、自身の右腕を刃物に変えると、美夜の首に当て後退した。
「美夜ッ!」
「───ヒッ……!た、珠代さん!?その腕は……!?」
「……あーぁ、あと少しでこの目障りな女を消せたのに」
珠代はメキメキと音をさせながら己の姿を変化させた。まるで蟷螂のように両手に大きな鎌を携えた、恐ろしい巨体の剣妖だった。
「やはり珠代さんに擬態していたか……!本物の珠代さんはどこへやった!」
「ああ、あの女。とっくに食っちまったよ」
剣妖はそう言い捨てると、アンタたちよく私の正体に気付いたねぇ、とカラカラ嗤う。
「でももう遅いよ。この女───翡翠の乙女はお前達を増強する。アタシらにとっては目障りな癌でしかない。闘神と組まれたら厄介だから先に殺すつもりで来たけど、面倒だからお前らも一緒に殺してやるさね」
そう言って大鎌で美夜の首元をかざしながら、もう片方の鎌でスッと上下に薙ぐ。スパッと服が両断され、薄皮も斬られたのか胸元から血が一筋流れた。
「ひッ……!」
美夜はガタガタと震え顔を青くする。咬介が黒烏刀を鞘から出し構えるも、人質を取られている状態からのため睨み合ったまま動けない。
「翡翠の乙女の血だ。アタシら剣妖でも力が増幅されるのか試してみようかしら。オイ女、今までお前が貪ってきた人間たちの生命力をアタシに寄越しな」
美夜は震える声で、
「……ほ、本当に私が……皆を苦しめてたの?私のせいで、憂介も兄様も病気になったの……?」
美夜もこの剣妖から聞かされ、星の乙女の真実を知ってしまったのか。
「おい美夜!!そいつの言葉に耳を貸すんじゃねぇ!しっかりしろ!」
咬介の言葉など聞こえていないように、目は虚になりガクガクと膝を震わせている。




