15-5
雨が激しく降り頻り、地面を叩く。居ても立っても居られず飛び出して来たが、とにかく私は咬介に会いたい───。そう思い手紙を片手に付近を徘徊すると、丁度奥から喪服を着た数人が現れた。その中に、咬介の姿もある。
───咬介、と声をかけようとしたが、咬介は喪服に身を包み、手には骨壷を持っていた。こちらに気づかず、誰かと話している。そして一礼すると他の者たちは去っていき、咬介はひとりその場に取り残された。
傘もささずに、ただ雨に打たれながら、どこにも焦点も合わないような瞳で虚ろにその場に立ち尽くしている。まるで天が咬介の代わりに泣いているような───。それでいて、咬介の涙を隠しているような。咬介は紫苑さんの遺骨を持ったまま、ずっとその場を動かない。
付近に誰もいなくなると、私はおずおずと咬介の目の前に現れた。咬介は驚き目を見開く。
「お前、何故───」
私は傘を差し出して咬介を中に入れる。ずぶ濡れの髪から雫が滴り落ちた。
「……何故、此処にいる」
俯いたまま問われ、私は懐の手紙を握りしめ答える。
「貴方が、ひとりになると思って───……、放っておけなかったの」
ようやく視線が合うと、苛立ちを隠さず目を吊り上げて言う。
「同情か。いらねぇんだよ。さっさとあの野郎の元へ帰れ」
傘から出て行こうとする咬介に、待ってと袖を掴み制止する。
「紫苑さんから言われたの。心のままに選択して生きろって。……だから私は自分の意思で決める」
雨音だけが響く中、かき消されそうな小さな声で私は言った。
「咬介、───側に居させて」
いっそう降り頻る雨が服を濡らし、私たちを包んでいく。激しくなっていく中、咬介がようやく口を開いた。
「俺はお前に紫苑の代わりなんて求めてねぇよ」
「知ってるわ」
「紫苑から何吹き込まれたか知らねぇが、俺は孤独がいいんだよ。お前なんか呼んじゃいねえ」
「知ってる」
「……だったらなんで」
苛立ちながら手を振り解こうとする咬介に、言い放つ。
「貴方はきっと今日、ひとりで泣くから……」
ざぁぁ、と雨音が静寂の中、響くように歌う。
憂介に紫苑さんの死を告げられた時、頭の中思い浮かんだのは、一人で寂しく孤独に耐える咬介の姿だった。
───咬介のこと、ひとりにしておけない。
本当は優しくて不器用な人だから、今もきっと喪失感で打ちひしがれている。
私が行って守ってあげたい。たとえ、突き放されたとしても───。
ばん、という音がして、傘は風上へと飛んでいった。咬介が怒りに任せ叩いたからだ。雨に打たれながら激しい形相で咬介は叫ぶ。
「同情も憶測で俺を決めるのもやめろ!悲しんでるから慰めてやろうってか!?そんな憐れみいらねぇんだよ!!お前はあの野郎とこの先もずっとよろしくやってろ!」
全身ずぶ濡れにながら、それでも私は強く見据え視線を逸らさない。胸に決めた決意を、違えないように。
「貴方がいらなくても、私は居たいの。一緒に紫苑さんを弔わさせて。私はもう、心のままに生きると決めた。貴方が私を拒もうと、……要らないと告げようと。ただ、側に居られればいい。それだけでいい」
大きな瞳から一筋涙が伝う。温かく、清らかな涙だった。
「他には何もいらない。……ただ、一緒にいさせて」
雨が激しく肩を叩き鳴き頻る。咬介は相手を想いやるがばかりに自分を押し殺してしまうと言っていた紫苑さんの言葉を思い出す。
咬介も本当は私と居たいと思ってくれているんじゃないの?だから、お母様の形見の指輪を私に贈ってくれたんじゃないの───?
咬介は黙ったまま濡れた手で私の顎を掴み目線を上げさせると、
「後悔するなよ。───俺はもう、二度とお前を離してやる気はねぇ」
そう言い、貪るように口付けた。
雨のほかに、二人の姿を包むものはいなかった。




