15-3
斎場は病院からそう遠くない場所で、到着すると数名の人達が喪服に身を包み慌ただしく動いていた。
───紫苑さんは慕われていたと聞いていたけれど、こんなにも人が少ないものなのかしら───。
先ほど憂介は中立の立場を変えなかったため迫害された、と言っていたが、人が亡くなった時くらいは皆葬式に訪れるものではないだろうか。保守派の人間も、元老院派の右近たちの姿も見えない。
慌てて来てしまったため喪服姿ではない自分に尻込みし参列できずにオロオロしていると、一人の男が背後に近付いていたことに気づかなかった。
「───あの、」
驚いて飛び上がると、忍ばせた鈴がシャンと鳴った。振り向くと男が静かにこちらを見ている。大きな蛇目傘から覗き見る姿は、大柄ではないが落ち着いた佇まいと所作が高潔さを思わせ、そして存在感のある両の紅眼が───。紅獅子の血筋を示す唯一無二の輝く紅眼が、真っ直ぐに私を見据えていた。
紅の獅子の眼……この御人は───……!
「鈴代美夜さん、で合っているかな?」
黒紋付を着た細身の男はそう言うと、黙って手紙を懐から取り出した。
「紫苑から預かっていたんだ。君に渡して欲しいと言われていてね。会ったこともないからどうしようかと思ったんだけど───」
男は私のポケットを指さすと、
「その鈴の音が導いてくれた。返してもらうね」
ハッとして懐から取り出すと、手紙と鈴を交換するように渡した。
こうなることを見越して、わざと病室へ置いて行ったのだろうか。真相はわからないが、私が対峙しているこの男の人は───いつぞやの白夜会のときに一度だけ見たことのある。紅獅子財閥現在の最高権力者であり憂介の祖父、紅獅子一郎その人だ。
見た目は歳を感じさせないほど若々しいが、それでも長久の歳月を思わせる貫禄がある。
「あ、あの……この手紙は……私が受け取っていいんでしょうか」
受け取った手紙を手に思わず変な質問をしてしまったが、一郎氏は笑って、
「君に渡せと言われた以上、どうするのも君の自由だ。君が咬介の───、咬介と憂介の大切な存在であることは僕も存じ上げているよ。今日は憂介との大事な約束を蹴ってここへ来た、ということでいいのかな?」
全てを見透かしたように言及する一郎氏に、何も言葉を発することができず黙ってしまう。そんな私に、
「最後に紫苑に挨拶をしてやっておくれね。それじゃあ」
とだけ言うと、付き人と共に車に乗り込み去っていく。
その背を目線で追い、姿が見えなくなってから託された手紙を開いてみる。紫苑さんの繊細で達筆な字が書かれており、どうしてだか読むのに躊躇ってしまう。それでも託された以上は読まなくてはという使命感から少し離れた場所に移動すると、再度手紙を開いた。




