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叩かれた頬は赤く腫れ、尾を引くように痛みが後からやって来た。その痛みを確かめるように手を添えると、そのまま立ち尽くす。
大嫌い───か。ついぞ最後まで、撤回されることはなかったな───。俺はアイツから何度となく浴びせられた言葉を反芻する。
何故俺はこんな風にしか生きられないんだろうか。大切なものだから、側に置いておけない。たとえ嫌われてでも距離を置いて幸せを遠くから見守ってやるしか、守ってやれる方法を知らない。奪い、乱暴な言葉と行動で何度となく傷つけた。そんな俺がアイツと一緒に居れるわけがないのだ。
いつぞやに右近から忠告された言葉を思い出す。『欲しいものは手放さない。失くしたくないものは大切にする。……簡単なことだ』……。その、簡単なことが俺には出来ない。臆病者だとも言われたがその通りだと思う。
───アイツには幸せに笑っていてほしい。そしてそのためにも、あの野郎と引き離すことはしてはいけない───。
横たわったベッドの上で、ただ泥のように体が沈み落ちていくのを感じた。
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一時間程度談笑しただけで、珠代さんは帰って行った。内容は主に互いの趣味や今度出かける約束の取次であったが、何故だか珠代さんは、美夜に興味津々のようだった。
「……今度美夜さんとお話ししてみたいわ。取り次いでくれない?」
「ええ……?でも、どうしてですか?」
お願い、と強く言われ困惑した。形だけとはいえ婚約者である珠代と、駆け落ちしようとしている美夜を引き合わせるなんてとてもじゃないが生きた心地がしない。適当にいつかまた、とお茶を濁したが、そもそ次に会う日など来るのだろうか───。
しっかりとこの結婚は白紙にしたいと申し出るタイミングも失くし、何もかもが中途半端になってしまった。美夜は今どうしているだろうか。咬介との話は済んだ頃合いだろうが、先ほど強引にドアを閉める大きな音がしてから一向に降りてこない。何となく昼餉は外で済まそうと思い家を出ようとしたタイミングで、電話が鳴った。いつもはすぐ美夜が出て取り次いでくれるのだが、すぐ近くにいたこともあり自分で受話器をとった。 受話器の向こう側で、男が名を明かし要件を伝えてくる。内容に驚き目を見開かせ、一瞬で体温が下がり汗が吹き出した。それでも僕は、どこか冷静にそれを聞き、早打ちする心臓を落ち着かせながら震える手で受話器を握りしめ、片手でペンを走らせた。
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