14-3
部屋に入り、咬介は無言を貫いていた。座るわけでもなく、ただ窓の方を見て背中を向けたまま、何も発しようとしない。痺れを切らしその背に向け問い質した。
「……あの日、憂介との会話をやっぱり聞いていたのね」
「……」
駆け落ちに着いてきてくれと言った憂介。そして好きにしろと言って鍵を渡してきた咬介。結局私は黒烏刀に手を出さなかったが、その行動は、どこかどっちつかずで不誠実と思われたかもしれない。
「あのときは……好きにしろと言ったけど、私は……」
咬介が先ほど、この女は連れて行かせないと憂介に宣言したことが、嬉しかった。咬介が側にいろと言ってくれるなら、私は───、
「好きにしろ」
え?と思わず返した。咬介は振り返り、一瞥するとベッドに腰掛けた。
「俺の考えは変わらねぇ。お前が決めて好きにすればいい」
そう言って煙草に火をつけた。私は唖然として、
「……さっき憂介には連れて行かせないって言ったじゃない」
「あれはあの野郎が勝手するのが気に入らないからそう言っただけだ。お前の決定に口出しはしねぇ」
「……なにそれ」
煙を吐きながら、
「……あの婚約者の女。健気に憂介を追いかけてきたみてぇだが、あの女をも無下にするつもりなんだろ、アイツは。大富豪の令嬢との婚約も破棄し全てを捨てる覚悟の男に、お前は応えてやんなきゃならねぇんじゃねぇのか」
混乱し握った拳がわなわなと震える。さっきまでああ言っていたくせに。どうして急に発言を覆し、突き放すようなことを言うのか。憂介のことを気に入らないと言いながら、気遣い、一緒に行くように仕向けるなんて。
「……咬介は、それでいいの?」
震える声で絞り出すようにして訊く。不機嫌そうにこちらを睨みつけると、
「俺を測るな。お前の代わりなんていくらでもいる。さっさと出ていけ。丁度飽きてきた頃だったしな」
「憎めって言ったじゃない!!」
感情的に飛び出した声は、思いの外大きく響いた。
「貴方を恨むことを生きる目的にしろって言ったわ!あのとき私を行かせてくれなかったくせに、なんで今、突き放すようなこと言うのよ!!」
この先、私が勝手にいなくなることはこの先絶対に許さないと言ってくれたのに。なのに。どうして。
「離れるなと言ったのは咬介じゃない!どうして、どうして一緒に……」
「思い上がるなよ使用人風情が」
斬り捨てるような厳しい声が放たれた。
「一回抱いたくらいで恋人面するな。お前如きの女なんて俺には何人もいる。あっちの方も不自由してねぇんだよ。それとも何だ?俺に抱かれて少しは触発されたか?どうしてもっていうなら最後にもう一回───」
パン、と軽快な音が響き、平手打ちを左頬に素直に受けた咬介は、黙って私を見下ろした。
私は瞳いっぱいに涙を溜めて、溢れないように必死に睨みながら、閉じた口を震わせていた。そのままベッド上にあった本も枕も勢いのまま咬介に投げつけ、
「あんたなんか大嫌い!」
と叫ぶと、壊れんばかりにドアを叩き閉めて去った。




