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部屋の掃除をしながら想いを馳せる。あれから更に優二郎様からの風当たりは強くなった。無理もない。言いつけを守らず、黒烏刀を持ち出さなかったのだから───。
刀はどちらも持ち合わせている以上、大富豪の西園寺グループとの繋がりを持った憂介たち保守派が、この次期後継者争いに一歩リードしたといえた。しかし当の憂介が、西園寺家令嬢珠代さんとの結婚に消極的であることや、この醜い争いごとから脱却し全て放棄したいと思うまでになっていることを、保守派の連中はまだ気づけていないのだろう。
───僕と共に全て捨て、一緒に来てくれないか───
憂介から告げられた、駆け落ちの言葉。憂介のことを愛しているから、受けるべきなんだろう。
───そう、愛しているのならば───。
窓に映る醜い自身の姿を見て、ため息をつく。気づいてしまった、自分の気持ち。憂介のことは大切だ。だけど、これから先ずっと一緒にいたいと願い、強く惹かれ求めてしまっているのは、咬介なのだ。
始まりこそ最悪であんな形で契ってしまったが、それでもいつの間にか心に居座りずっとそこから離れない。
ふと、靴擦れの治った右の踵を見て先日のダンスパーティーを思い出した。月明かりの中、誰も見ていない中咬介と二人踊った夜───。急拵えではあったがあの日私は確かに咬介のパートナーで、誰も許してはくれなくとも、輝く星と月は私たちを祝福してくれていた。
思わず緩みそうになる頬を正す。私は身分違いのメイド。間違っても結ばれることなんてあってはならない。
ましてや、二人の男の間で揺れるなど───。
こんな状態では憂介と共に行くことは許されないし、だからといってこのまま咬介と共にいることも大変な裏切りだ。ああ、なんて最低なんだろう───。
雑巾を絞り、床の汚れを拭く。頭の中でぐるぐると考えがまとまらない時はいつだってこうして体を動かしながら解決に向けて模索し、掃除に勤しむ。今日は朝から優二郎様は出かけて行ったが、憂介は来客があると言っていたし、咬介は出かけず部屋で過ごすようだ。客が来るまでに終わらせなければ───。
急いでいると、ふと廊下の真ん中で憂介が立っているのが見えた。そしてタイミング悪く、部屋から咬介が出てきて二人鉢合わせ、その間に私が立たされている状態になった。憂介は私と咬介を見合わせると、
「……丁度よかった。咬介、美夜。この後僕の部屋に来てくれないか?……今後の話がしたい」
一気に体温が下がる思いがした。鼓動は速く脈打つ。咬介はひと睨みすると、分かった、と素直に言い階段を降りていく。私はうろたえながらも、部屋に戻る憂介を見届けてから掃除道具を戻し、息を整えて部屋の扉をノックした。




