13-4
参加者達は続々帰り支度を済ませ、車に乗り込んだり馬車の手配をしている。その側を尻目に四方捜すと、森の木に隠れ二つの影が見えた。───優二郎と美夜だ。見つけた。
優二郎が恫喝しており、そして美夜に手を挙げ打とうとしたその手を、俺は寸のところで止めることができた。
「……!咬介……?」
「……っ!貴様、何しに来た」
ふたりは俺に驚き目を見開いている。恐らく、黒烏刀を持ち出さなかった美夜を罰しようとしていたのだろう。
「人の下僕に手を上げるな。去れ」
掴んだ手を強く握ると、骨が軋むような音が聞こえた。優二郎は自身の手を強く引き手が外れると、
「くそッ……!お前もこの女に抱き込まれたか。まぁいい。たとえ黒烏刀がそちらにあろうと、憂介が選ばれることに変わりはない。俺たちの反撃に震えて眠れ」
そう言い残し踵を返し去っていった。沈黙が残された俺たちを包む。見ると、美夜は左頬が赤く腫れている。───既に一発殴られてしまったのか。
「……馬鹿女が。大人しく刀を差し出せば良かっただろうが」
美夜は左頬を隠し、そうね、と呟いた。
「……何故そうしなかった」
問いかけに美夜は答えない。夜の森では、虫の鳴き声が小さく響いている。在るのは月の光と満天の星々。その他に二人を包むものは何もない。
「どうしてかしらね。分からない。……重かったからかな」
そう答えると、スカートを持ち上げ自身の足を見せた。折れたハイヒールで段差ができてしまい上手く立てていない。
「こんな状態だしね。ああ、折角着飾って貰えたのに散々な日だった」
眉根を下げ笑う。さ、もう帰ろう、と歩き出そうとする腕を引き止めた。
「……え?なに?」
俺は何も答えず、代わりに美夜の腰を掴み、そのままひょいと自分の右肩に担いだ。
「え!?な、何!?わぁ、降ろして!」
騒ぐ美夜をものともせず、そのまま噴水の腰掛けに座らせ、靴を脱がせた。靴擦れは絆創膏に守られてはいるが血が滲んでおり、爪は割れている。
「……捻ったりはしてねぇか」
「そ、それは大丈夫……だけど」
普段の俺と違った言動に驚いているのか、美夜は信じられないようなものを見たといった顔をしている。俺はもう片方の靴も脱がす。
「な、何するの……て、ああ!」
勢いよく宙に放り投げると、両の靴は高く投げ捨てられ噴水の中に落ちて高飛沫が上がった。
「っぷわ……!な、何すんのよ!」
「かったりぃからもうここに捨てて帰れ」
そう言い、俺も上着を脱ぎ噴水に投げ捨てた。美夜は開いた口が塞がらないようで、そのまま裸足の状態の彼女の腕を強く引いた。
「きゃっ……!」
不安定な体を抱き留め、自分の左手は彼女の手を、右手は腰に添えてやり、しばらく見つめ合うと、ゆっくりとリズムに乗せるように動き出した。
「ちょっと待って、これじゃあまるで───」
美夜の声を無視して続ける。
「……踊れないって言ってたくせに。嘘つき」
「ああ?踊れねぇよ。こんなのは見よう見まねだ」
夜風が心地よく紅潮する頬をかすめていく。月明かりの下、降るような星の他、誰も俺たちを見ていない。美夜は裸足の状態で芝生を踏み、くすぐったいのかクスクス笑ってやがる。分からないステップは適当に誤魔化して、側から見ると決して上手くはないが、心踊るひととき。
止んだはずの音は自分の中で鳴り響きワルツは続く。
「咬介、貴方って意外とロマンチストなのね」
「うるせぇよ」
俺はそう言って、赤く腫れてしまっている美夜の左の頬に手を添えた。
「……悪かったな、護ってやれなくて」
「平気よ。……ありがとう」
今度は意外そうな顔はせず、素直に微笑んできた。
月が。ただ金に輝く月だけが、夜に溶ける二人に影を落とし、そして夜の帷に包んでゆく。
俺たちは時が経つのも忘れ、月明かりの中手を取り踊り続けた。




