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翡翠の乙女と双頭の紅獅子  作者: 棗健
星の下のワルツ
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53/78

13-1

咬介に合わせる顔もなくフラフラと廊下を歩いていると、まもなく始まりますので二階会場にお集まりくださいとアナウンスが響いた。階段を登り催場に到着し、できるだけ目立たないよう隅にいるようにしたが、ふと、この宴会は新たな白夜会の前夜祭として、後継者候補の咬介と憂介を担ぎ出すためであったことを思い出し、ならば自分も咬介の近くに居なければいけなかったのは、と今更ながら心配になった。しかし先ほど喧嘩した手前、素直になることもできずどうしたらいいのかも分からない。

周りはパートナーを連れた男女が並び、居た堪れなさと居心地の悪さは続く。そのうちに高座に司会の男がマイクを持ち現れた。


「───皆様本日はお集まりいただき……───」


口上が続き、高座には咬介と憂介が二人並んで立っている。先程のやりとりが尾を引いてか、明らかに咬介は苛立っており、周りは萎縮しているようだ。その隣に憂介もおり、だがしかしパートナーとおぼしき女性はいない。


───憂介は特に誰も立てなかったのかな……


咬介と憂介の紹介も終わり、進行はスムーズに進んでいった。しばし歓談をお楽しみください、と告げると、参加者からどよめきが起こった。なんだろう、と見てみると、優二郎様が高座に現れ司会からマイクを奪うのが見えた。周囲は呆気に取られるも、優二郎は気にせず堂々と中央に立ち言った。


「皆様、私は憂介の叔父である紅獅子優二郎です。本日はお集まりいただきありがとうございます。少々お時間頂くことをお許しください。

───さて、皆様もうご存知の方も多いかと思われますが、憂介は数ヶ月前、病に倒れました。我々紅獅子財閥の次期総帥である彼の病臥は、皆様を酷く混乱させ失望させてしまったことと存じます。誠に申し訳ございませんでした」


次期総帥、と言い切る無遠慮さに、元老院派や会場の右近たちは眉根を顰めた。しかし優二郎様は意に介さず続ける。


「ですが、ここにいる九頭咬介様のお陰で、憂介は見事回復することができ、今は前と寸分変わらず日常生活も送れるようになりました」


手を咬介に向け注目を集める。

一体、何をしようとしている……?周りは猜疑心を募らせ警戒を強めた。


「───今日皆様に、憂介がめでたく婚約したことを発表致します。お相手は、西園寺グループの会長御息女、珠代さんです」


示し合わせたかのような保守派連中の喝采と拍手の中迎えられたのは、漆黒の艶髪を揺らし眩しい黄色のドレスに身を包んだ、嫋やかな女性。一礼し、堂々と自己紹介と挨拶を続ける。

だけど、私の耳にはもう何も入らなかった。憂介はもう遥か遠くへ行ってしまった感覚を覚え、ただゆらゆらと目の前の綺麗な女性が陽炎のように揺れる。

西園寺グループといえば日本有数の大企業で、名を知らぬ者はいない。その代表の令嬢と一緒になるとあらば、優二郎様たち保守派は遅れを取り戻すだけでなく最大かつ最良のカードを切って来たと言わざるを得ない。


───憂介は、この女性と結婚する───。


気がつくと震える身体を抑えながら会場外へ出ていた。そこはバルコニーになっており、外はもう夜の帳が下りて月と満天の星が夜空を飾り私を見下ろしていた。扉を閉めたため、中で何の話をしているか分からないが、もう何も聞きたくなかったし見られなかった。

憔悴し座り込んでいると、誰かが息を切らし走ってやって来た。誰?、と警戒すると、暗闇の中、よく見知った姿が現れた。

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