12-2
「おい、聞いてんのか」
上の空で箸を持ったまま朝食も食べずにぼーっとしている私を咬介が一喝した。驚いてごめん何?と訊くと、舌打ちしながらもう一度説明する。
「今日静が来るから迎えてやれ。お前も一緒にいろよ」
「そうなの?でもなんで?今日は洗剤を買いに出かけたかったのに……」
咬介は答えず、代わりに問う。
「何さっきからボーッとしてんだよ。これ以上間抜け面晒すなよ」
誰が間抜けですって!?と怒るも、上の空の理由は、今朝の優二郎様の内容より他ない。黒烏刀を持ち出すなんて、そんなこと───。
再び暗い顔をしながら思い詰めていると、ふと思い立ち咬介に尋ねる。
「ねぇ、もしかして静さんが来るのって、服を見繕うため?今度会合があるから新調するっていってた……」
「そうだ。ったく、なんで毎度新調して披露しなきゃなんねぇんだ。七五三じゃあるまいし」
思わずプッと吹き出すとジロリと睨まれた。静さんに会えるならお菓子を用意しておかないと。久しぶりにクッキーでも作ってみるかな。
先ほどまで憂鬱だったくせに、菓子作りのことを思うと胸が躍る。すると、お前も見繕ってもらえと咬介に言われ驚いて顔を見た。
「へ?今なんて……」
「だからお前も静に服を仕立ててもらって、当日は俺に同行してもらうからな」
心臓が速打ちし、みるみる青ざめていく。財閥の人間が多数いる中、場違いに一人出席する自分を想像して汗が噴き出た。結局集まりには連れていって貰えませんでしたと、優二郎様にするはずだった言い訳も失くし、当日は憂介から咬介へ鞍替えした恩知らずな使用人女として四面楚歌になることも必至だ。
「な……そ、そんなの無理よ……!私絶対行けない」
「行けないじゃねぇよこれは命令だ」
「だ、だいたい何で使用人の立場である私がそんな大事な集まりに……」
咬介はうんざりした顔で言う。
「仕方ねぇだろ。今度の集まりは女のエスコートを義務付けられてんだよ。急拵えで準備できんのがてめぇくらいしかいねぇんだからよ」
ぐっと近くまで顔を寄せると、
「俺の奴隷になるときになんでもやるって言ったよな?それともあれは口先だけか?お前は俺の望むように動けばそれでいいんだよ」
嘲笑うように言い捨て、そのまま部屋から出ていった。
酷い言い草だったが何も言い返せなかった。紫苑さんに会い、お母さんのお墓参りに行けてから少しは距離が縮まったと思っていたが、やっぱり咬介にとって私は、ただの使い勝手のいい使用人なんだ……。そう思うと、なんだか酷く悲しくなった。そのまま途方に暮れ、優二郎様に言われたことを思い返す。
咬介。私は貴方を裏切って黒烏刀を奪ってしまえと言われているのよ───。
そんなことしたくない。それでも憂介のことも見捨てることができない。板挟みの状態で、私は暗い顔をしながらその場から動けなかった。




