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2-2

ふと、憂介様の顔から一筋の血が流れ、ギョッとする。


「……やだ、鼻血よ。大変。今すぐハンカチ持ってくるわ」

「ええ?……ああ、最近多いんだ。ごめんね美夜。頼むよ」


慌てて大階段を駆け降り、救急箱とハンカチを用意し戻ってから渡した。手当しようとした瞬間、不意に玄関から大きな物音がした。誰か来たようだ。


「はぁい、すみません今出ます。少々お待ちください」


誰だろう。今日は誰か来るような言伝は受けてないのに。再度階段を降り声をかけて施錠を解いた。装飾が施された扉を開けると、急に腕を掴まれ、バランスを崩した。


「きゃっ……!」


あっという間に知らない男の腕の中に収まり、見上げた瞬間。煙草の煙の中から、妖しく光る二つの紅水晶が現れた。───それが、男の瞳であることが分かるのに、一瞬の時間がかかった。

───吸い込まれるようだわ。───美しくて、目が逸らせられない。一瞬にして捕えられてしまった。こんなに美しい瞳は、生まれて初めて───。

いや、違う。私はつい今しがた、同じ眼を見たばかりだ。そう、大階段にかかる肖像画の中で───!


「あ、貴方……誰……?」


腰を抜かしそうなほど驚き、来客であることを忘れたような訊き方をしてしまった。男は身長が高く大柄で、漆黒の髪を襟足まで伸ばした粗暴な出たち。煙草を咥えたままの姿は、野蛮そのもの。しかし、端正な顔に宿る二つの眼は、名を名乗らずとも、この男が誰なのか───、正しくは、どの血筋の者であるのかを如実に物語っていた。


「あ、貴方は……!」


騒ぎを聞きつけた憂介様は、玄関に到着すると、男の姿を見て驚き言葉を失った。男の腕の中で固まっている私など目に入っていないようで、顔を青くしたままその場に立ち尽くしている。

男はじっと私を見つめた後、興味を失ったおもちゃを捨てるように、腕の拘束を解いた。弾みで大理石の床に倒れ込んだ私が次に見たものは、扉の外に置かれた大量の荷物と家具。男は憂介様を一瞥すると、


「よう、憂介。デカくなったじゃねぇか」

「……咬介、兄さん……」


愕然とした表情で返す。どういうことかと困惑していると、


「邪魔すんぜ」


傍若無人に土足のまま上がり込むと、それが合図だったかのように、多くの者たちが一斉に荷物を家の中へと運び入れていく。

訳がわからず、理解もできない私はただ叫ぶしかなかった。


「え!?な、何……!?なんなのあんたたち!なんで勝手に人の家に上がり込んでるのよ!」


困惑する私をよそに、荷物は全て屋敷内に運び込まれ、運搬の男たちは仕事を終えると速やかに去っていく。ええっ、ちょ、これどうしたらいいのよ!と再度叫ぶと、咬介と呼ばれた男が、もう一度私をじっと睨む。翡翠の色をした瞳が珍しいのか、逸らすことなく観察をやめない。刺さるような視線に居た堪れなくなり、な、何よ……と返そうとした瞬間、憂介様が前に立ち守るようにして男から遠ざけてくれた。


「咬介兄さん、いきなりなんだっていうんだ。突然押しかけて来て……」


次の瞬間、血相を抱えた優二郎が、三人睨み合う玄関に飛び込んできた。


「憂介!大変だ……!アイツが……!」


見上げた先に咬介の姿を認めると、途端にああ、と絶望の声を上げた。咬介、と呼ばれるこの粗野な男は一体何者なのかと困惑していると、途端に運びこまれた椅子にドカッと乱暴に座り、述べた。

「憂介、お前に奪われたものを取り返しにきたぜ。今度は俺がお前から全て奪ってやる。紅獅子は俺のもんだ」

肖像画の真下で不敵に笑う姿に、私は思わずアッと声をあげそうになった。


紅色の瞳だけでない。この男は───!


男は笑う。肖像画に描かれた先代と見紛うほどに瓜二つの、その顔で。

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