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翡翠の乙女と双頭の紅獅子  作者: 棗健
恩師との邂逅
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11-3

「はい、どうぞ」


引き戸を開けると、そこには色の白く、長髪を綺麗に靡かせた優顔の男がベッドに体を起こした状態で座っていた。焦点の定まらないような、全てを見透かすような澄んだ瞳が印象的で、神聖な雰囲気に思わず息を呑んだ。咬介はズカズカと病室に入っていき、


「元気そうじゃねぇか。『最期に一目』、なんて脅かすから急いで来たのに心配し損だぜ」

「おや、心配してくれたんですか。咬介、いつもありがとう」


そう言って、視線を私に向ける。


「そちらのお嬢さんは……?」


慌てて頭を下げ、

「は、初めまして!咬介の使用人をしてます鈴代美夜といいます!」


男は満面の笑みで私を見つめた。手に持っていた百合の花を咬介に差し出し、


「ちょっと。もしかしてお見舞い用に買ったの?だったら百合は花粉がすごいしあんまり適さないのよ。なんで相談してくれないのよ」


これじゃあ私が非常識だと思われちゃうじゃない!と責め立てると、

「うるせぇな。俺はこの花しか知らねぇんだよ」


後頭部をガリガリ掻きながら答える。


「ふふ、いいんですよ。鈴代美夜さん、初めまして。私は紫苑と言います」


男は柔らかな物腰で自己紹介した。


「咬介とは親戚関係にあって、咬介の母君が亡くなってから親代わりをずっとしていました。自己紹介がこのような形ですみませんね。なにぶん病に冒された身なもので……」


着物から覗く腕は細く、太陽にあたっていない肌は透き通るほど青白い。百合の花束を受け取ると、紫苑は嬉しそうに笑みをこぼした。


咬介ったら、恩人のお見舞いにちゃんと来るなんて……意外だわ。こんな一面もあるのね。

咬介の顔を一瞥すると、ちょうど目が合い、照れ隠しなのかなんだよ、と不機嫌そうに睨まれた。そんな様子を見てこら咬介、と紫苑は窘め、フン、と外方を向く。


あの咬介が。叱られてる……!


珍しい光景に立ち会えたことに感動しながら思わず小さく震え笑っていると、紫苑さんは、


「ああ咬介、悪いんですがね。やっぱり百合の花も素敵ですが、外の庭に生えている別の花を摘んで持ってきてくれます?院内の花は好きにしていいみたいなので」


「はぁ?なんで俺が」

「あ、よろしければ私が……」


私が名乗り出るも、にっこり笑い、

「その間、私は美夜さんとお話ししておきますので」

「……てめぇ、それが狙いか」


怒り出す咬介に任せましたよ、と言い、にこにこしながら咬介が部屋から出ていくのを待っている。……余計なこと言ったら殺す、とだけ残し、出て行った。


すごい。さすが育ての親。きっと咬介の頭の上がらない数少ない相手なんだわ。

尊敬の眼差しでで見ていると、紫苑は騒がしくてすみません、と前置きし、


「咬介は、ちゃんとやれてますでしょうか。私がこのように伏せるようになってから一緒にいることもなくなってしまって……」


消沈する紫苑さんに、私は咄嗟にはい、と答え、


「わ、私が今あの屋敷に居れるのは、咬介のおかげなんです……あとそれに、危ないところも何度も助けて貰いました。普段はぶっきらぼうだし恐いし意地悪だし何考えてるかわかんないけど……あっ」


紫苑さんの目の前で悪口を並べてしまい、しまった、と慌てふためく。その様子に、ふふ、と笑いながら述べる。

「あの子は、不器用でしょう」

そう言い、眼を細めながら、


「母親と二人支え合いながら生きてきて、母を亡くしてからは特に誰にも頼ることなく生きていたようでした。ようやく私が見つけ出せた頃には犯罪まがいの組織に身を置いているような状況で……。なんとか連れ出し、私はあの子を叱りました。けれど、一緒に過ごすうちにわかってきたんです。……あの子は、大人を頼らないんじゃない。頼る術を知らないんだって───……」


目線を落とし、続ける。

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