11-2
⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎
「おい、出かけるぞ」
唐突に言われ、私は洗い物途中の手を止めた。出かけるって何処に?と問うも、十時には家を出るとだけ言われ咬介は去って行った。迅速に仕事を終わらせると自室に戻り、適当に服を見繕おうとしたが、以前静さんに全て捨てられたことを思い出すと、あのとき用意された服のうち無難そうなパステルピンクのワンピースに袖を通した。
玄関で待つ咬介にお待たせ、といい小走りで駆け寄ると、咬介は私の姿を見たまま暫く制止している。
「……やっぱり似合ってなかったかな……髪もおろしてみたんだけど……」
気まずく手をもじもじさせていると、フン、悪かねぇ、とだけ言って扉を開け進んでいく。悪くない、は似合ってる、だったかしらね、と思いつつ、私も背中を追いかけた。歩くのが早い咬介の姿を必死で追いかけ、何処に行くのよ、と投げかけるも、そのうちに駅に着いた。切符を渡され、待合室で汽車が来るのを待つ。
「汽車に乗るの?私初めてなんだけど」
受け取った切符を握りしめ、頬を紅潮させていると、咬介は田舎者、と毒づき笑った。
結構遠出するのかな。結局何処へいくか、教えてくれてないし……。
少し不安になりながら、それでも初めて乗る汽車に期待は膨らむ。汽車が到着すると、咬介が先に乗り込んだ。どうしたらいいかわからず困っていると、早く乗れ、と腕を引く。恐る恐る飛び乗り周りを見渡してみる。
「靴は脱げよ」
「え!?そうなの!?みんな脱いでないみたいだけど」
「冗談だ馬鹿」
もう!と頬を膨らませて腕をポコポコ殴ると、その様子を周りの乗客が優しい視線を向けて笑っている。恥じらいながら席に向かい、向かい合わせの席に座って出発の時間をドキドキと待ち侘びる。
「ねぇ窓開けていい?」
「好きにしろ」
咬介は腕を組み目を瞑る。寝るつもりだろうか。出発の時刻になり汽笛の音が響く。ゆっくりと汽車は進んでいき、次第に速さが増していくと、窓から景色がどんどん流れていった。煙たい灰色の煙が鼻を掠め、風が髪をなぞっていき、初めての経験にまるで子供のように眼を輝かせ興奮した。
木々を抜け、岸壁からは海を臨み、碧い空と海の水平線がキラキラと輝く。すべての光景に感動していると、いつの間にか眼を開けて一部始終を見ていた咬介が、ガキじゃねぇんだからよ、と静かに笑った。
小一時間程度乗った頃、降りるぞ、と言われ小さな駅へ降り立った。そのまま咬介は小さな花屋へ行くと、百合の花束を持って出てきた。そして何も言わず私へ差し出す。
「へ?なにこれ……くれるの?」
「違ぇよ。俺が持つのは恥ずかしいからおめぇが持ってろ」
そう言ってぶっきらぼうに背を向け、また更に歩いていく。なんだ、私にくれたわけじゃないのか。せっかく綺麗で大ぶりな百合の花だから、ちょっと嬉しかったのに。
私は不貞腐れながらその背中についていくと、やがて道が開け、大きな建物についた。建物自体は古いようだが、緑も多くとても長閑で澄んだ空気に包まれた場所。見ると、病院のようだ。誰かのお見舞い……?と思いながら、咬介についていき階段を上がっていく。
三階の一番奥の部屋に迷わずまっすぐ進むと、病室のドアをノックした。部屋には、紫苑、と書いてある。




