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翡翠の乙女と双頭の紅獅子  作者: 棗健
恩師との邂逅
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44/78

11-1

あれから数日経過した。


私は食事を作って準備はしても、自分は部屋で静かに摂るようにし、屋敷の中ではあまり姿を見せないようにしていた。咬介の分も部屋へ運んでやることが多く、今となっては食事は皆で揃って食べるという、あのときの約束も果たされない。咬介は何かと理由をつけては、私も同じ部屋で食事を摂るように言った。もしかしたら一人寂しく食事をする私を憐れに思ってくれたのかもしれない。


日々の仕事も、皆が出て行ってからこっそり部屋を出てこなすようにして、出来るだけ憂介と優二郎様には顔を合わせないように努めた。この屋敷に居ることは咬介が認めてくれているし、優二郎様も憂介の手術の借りと負目で咬介とその使用人を追い出すことは出来ない。それでも主人が変わったことで、何か頼み事をするのにも私を使役できなくなった分不便を感じているようだった。


 ◇◇◇◆ ◇◇◇◆


「叔父さん、裁縫道具って何処にあるか知ってる?手首のボタンが取れてしまって……」


憂介は優二郎様に声をかけるも、そんなもの分かるわけない、と目線で返された。いつもは美夜がやってくれる。だが今は、頼むこともできない……。


憂介は、あれからずっと後悔していた。美夜が咬介についたのは、十中八九僕のためだ。僕の手術を咬介に頼むために、咬介の言うことを聞かざるを得ない状況になったのだろう。それが、表面上の裏切りや肉体を献上する形になったとしても───。


ふと壁にかかっていた鏡を覗くと、情けなく眉尻を下げたうだつの上がらない男が映っている。立派に光る獅子の眼が不釣り合いだ。


主治医の男は、手術を受け今まで閉じられていた神力の蓋がこじ開けられたのではないかと言っていた。そして今まで一方的に注がれてはいたが蓋が閉じられていたことで受けられなかった翡翠の乙女の星の祝福も、これからは受けられるようになるのではないかと───。


───せっかく開眼したというのに、美夜は僕の手からいなくなってしまった。


紅獅子の家を繁栄させるという翡翠の乙女。今は、咬介の元にいる。やはり、紅獅子の次期当主も財閥の次期総帥も、咬介になるのだろうか……。



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