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一通り制裁が終わると、そろそろその辺にしておけ、死ぬぞ、と服部が咬介に声をかける。見ると男たちは血だらけで虫の息状態だった。侘助と捨郎は警邏隊を呼ぶと言いこの場を立ち去っており、咬介はずっと休む間もなく暴行していたため、一息つき疲弊していたことにようやく気づいた。息を整え、返り血で汚れた服と両手を拭う。
「いやぁ……派手にやったな。しかし美夜ちゃん、無事で良かったぜ。おめぇから呼び出されたときは何事かと思ったけどよ……」
咬介は仲間たちに声をかけ、近隣の目撃情報やネットワークを駆使し美夜の居場所をなんとか突き止めていた。美夜の目立つ格好が功をなしたことと、人攫いが頻発してたためアジトと目ぼしい場所を事前に把握し教えられていたのも幸運だった。それでも美夜に怪我も怖い思いもさせてしまった。咬介は舌打ちすると、その場に座り煙草に火をつけた。
「なぁ、咬介……あの娘のこと、大切にしてやれよ」
服部の諭すような言葉に、ジロリと目線だけを送る。
「俺はよ、心配なんだ。いつもどこか孤独を抱えてるお前が、この先ちゃんと支え合える誰かを見つけてやっていけるか。俺たちだけじゃあ埋められないものが……あるからよ」
服部も火を貰い、フーと煙を吐き、続ける。
「余計なお節介だろうがな」
咬介は機嫌悪く、被せるように言う。
「その通りだ。ただ下僕を取られたから取り返しただけだろうが。それ以外に理由なんてねぇ。まったく、下僕の分際で手間かかせやがって」
「その割に、随分と入れ込んでるようじゃねぇか。俺にはあの娘がお前さんの鍵になるように思えてならねぇんだ」
「……何が言いたい」
服部はじっと咬介の目を見つめ、
「お前の足りねぇピースをはめてくれる女じゃねえのかって思てる。……まぁ、お前はガキだからな。今はわからなくとも、いつかわかる日が来る。その日のためにも、美夜ちゃんに嫌われたりしないように優しくしといてやれ。……ぬかるなよ」
「……くだらねぇな。あのチンクシャはただの下僕だ。それ以上でも以下でもねぇよ」
そう言って火を消すと、そこ掃除しとけ、とだけ言って狂は去っていく。服部はため息をついて青いねぇ、と呟き、思った。
───俺たち四人が咬介のもとに集ったのは、単にそれぞれの利害関係が一致していたのと、あいつといると単純に面白いからだ。静や侘助のように咬介に心酔しきってしまっている奴もいるが、俺は咬介の役に立ちたいだとか、憧れているといった感情はない。
───ただ、その青さは危ういと思い、年長者として見守ってきた。咬介は、俺たち仲間といる時でさえ、きっとまだどこかで誰かに心許されることを待っている───。
咬介は生まれてこの方、父親には本妻と家族がおり理不尽な肩身の狭さと世間を憚る気持ちを抱えていたし、母親は早くに亡くした。奪わないと生きていけない過酷な人生の中、それでもこいつは優しすぎるんだ。いつもあと少しのところで相手を想って自分を殺して手を離す。俺からしたら、そんな奴のことを救ってあげられる女が必要なんじゃないかと思う。母親の代わりじゃなく、男の部分も含め、全てを受け容れてくれる女───それも、信じ支え合える唯一無二の存在が。
美夜ちゃんがそれだとはまだ断定できないが、それでも女を側に置くことを極端に嫌う咬介の奴が、初めてここまで気にかけて反応を示している。自ら窮地に、俺たちの力を借りてまで助けに向かうほどに。
「余計なら世話ねぇよな。……勝手に父親ヅラして世話焼いてるだけだから」
服部は自嘲し、腰を上げた。




