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もう何処でもいい。死んでしまっても構わない。あの場所からいなくなれるなら。消えて、露になってしまいたい───。
ただがむしゃらに走って走って、気がつくと郊外まで出ていた。陽は落ちようとしており、このまま夜の帳が下りてきたら冷えてしまうかもしれない。着の身着のまま飛び出してしまったせいで何も持っていない。形は家出のようなものだが、もうあの屋敷には帰れないと思った。
そもそも暇を出されたときに出ていかなければいけないはずだったのだ。それをズルズルと今までのさばり続けてしまっただけのこと。それでもあんな形で憂介に知られてしまい、絶望で心が壊れそうだ。気がつくと雨が降り出して服を濡らし、春先なのにまだ肌寒いのと濡れた服で体温は低下していく。屋根の場所で雨を凌ごうと、トタン屋根の空き家に身を潜め雨が上がるのを待った。
───これからどうしよう。このまま消えてしまいたいが、これから何処かで働こうにも先立つものもない。いつかはあの屋敷に帰って、荷物だけ取ったら静かに居なくなろう。そう思った矢先に浮かんだのは、咬介の顔だった。
あんなに屋敷に居られるようにしてくれたのに、無下にしてしまった。申し訳ないと思う反面、あんな風に憂介の前で痴態を暴露されるなんて───。
私は先ほどのやりとりを思い出しては腑が煮え繰り返りそうな感覚を覚える。服部さんたちは咬介は悪いやつではないと言っていたが、もう到底そんな風には思えない。あいつはただの極悪非道な最低男なんだ。膝を抱え、悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。
一体どこで間違ったというんだろう。ただ憂介に生きていて欲しかっただけなのに───。
もうこんな風にこじれてしまった以上、憂介にも咬介のもとにも居られない。時が経つのを忘れずっと泣き崩れていると、足元に黒い獣の足のようなものが見えた。
なんだろう、これ───
そう思い顔を上げた瞬間、鳩尾に強い衝撃を受け、その場に倒れ込んだ。朦朧とする意識と歪んだ視界の中見えたのは、恐ろしい人相の男たちと黒い獣のようなもの。私はそのまま気を失ってしまった。




