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私はぺたんとその場に座り込んで泣き続ける。
「……僕を信じてくれなかったんだね。悲しいよ」
「……ガタガタうるせぇな。廊下にまで声が響いていたぞ」
見ると、咬介がドアの前に立っていた。そしてズカズカと部屋に入り込んできては私を立たせ、憂介に向かって殊勝に言う。
「お前がこいつを抱かなかったからな。だから俺がサラで戴いたんだ。処女とは思えない肉体だったぜ」
「───!」
赤面し、憂介は目を見開き憤怒と絶望の表情で叫ぶ。
「咬介!!……君って人は……!!」
「なんならどんな声で善がったか教えてやろうか?コイツは何処が感じて、どうされるのが好きか逐一教えてやるよ」
「やめて!!……やめて、お願い」
私は泣きながら腕に縋った。憂介は怒りに震えながら唇を噛み締め、口角から血が一筋流れた。
咬介に抱かれたのは、あなたの命を助けるためだった。手術を受けさせるためにどんな要求も受けると約束したからだ。
───だから、それで裏切り者だとどんなに謗られようと、自分で選んだ道なのだから、受け入れなければいけない。
「お前が捨てた女は今や俺のものになった。お望みなら今ここで抱いてやるから指咥えて見てろよ」
耐えきれなくなって私は咬介の頬に平手を打ち、部屋に大きな音が反響する。ボロボロに泣き崩れたまま走って部屋から出ていき、部屋には咬介と憂介の二人だけが取り残された。
「……咬介、君は最低だ……!」
憂介は搾り出すような声と憎しみを孕んだ瞳で立ち尽くしながら睨みつける。咬介はケッと一蹴し、出て行こうとしたところで憂介が叫んだ。
「僕は君を許さない!僕の持っているものを悉く奪おうとする君にはいつか必ず天罰を下す!僕を助けたと思うな。必ず助けたことを後悔する日がくるんだからな!」
「後悔してるとすれば、あの女だろうよ」
「え?」
咬介は向き直り、軽蔑と怒りの顔で睨みながら言う。
「俺が掛け値なしにお前を助けてやったと思っているのか?」
しばしの沈黙が流れ、咬介は続ける。
「そこに誰かの思惑があったと少しでも考えられないのか。……思えないなら、先にあいつを信じられなかったのはお前の方だ」
そう言って部屋から出て行った。
憂介は黙ったまま、徐々に冷静になり、もしかしたら自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと考え震えた。
美夜は、僕の手術のためにその身を狂に捧げた───。そう考えれば全て合点がいく。あんなに自分に尽くし忠実だった美夜が。僕の無事が分かるといの一番に駆け寄り喜んでくれた美夜が。僕を何の理由もなく裏切るはずが無いのだ。
慌てて廊下を出て部屋中探し回るも、そこには美夜はおろか咬介の姿もなかった。
───家を出てしまったか───。
外は、いつの間にか雨が窓を激しく叩き雷雲を呼んでいた。
探しに行かなくちゃ。───でも、何処へ?
憂介は探すあてもなくただ其処に立ち尽くして、糸のように空から伸びる雨をひたすらに見つめ続けた。




