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「……憂介、いま、大丈夫?」
ドア越しに声をかけてみる。返事はないが、勝手にドアを開け中を覗くと、憂介は何か言いたげにこちらを見ながら立っていた。後ろ手でドアを閉め、私たちは対峙した。
「……病気の経過はどう……?」
「ああ。医者にも激しい運動をしない限りはもう大丈夫だと言われている。……心配かけたね」
そう言って優しく微笑んだ。
以前と変わらぬ優しい表情。……なのに、輝く紅水晶のような妖しい瞳。まるで、咬介と話しているような錯覚に陥る。
「ゆ、憂介……その眼……」
「ああ、開眼したみたいだ。……皮肉だよね。アイツの血を受け入れた途端……。もしかしたら、アイツの細胞に全て入れ替わったんじゃないかとすら思うよ。僕一人じゃ、こんなふうには……」
憂介は続ける。
「でもこれで、僕も正統な紅獅子の後継者として正々堂々とできるはず。問題は山積みだけど、これからも彼らと闘うつもりだ」
力強い言葉に、緊張の糸が解けたのか思わずへたり込みそうになった。すかさず支えようとしてくれ憂介の腕が触れると、すぐ近くに顔があり心臓が跳ね上がる。
「……僕がいない間、追い出されたって聞いて気が気じゃなかった。……僕は何も知らなかったんだ。すまない」
「ううん、そんな……」
「……今は、咬介に仕えているのか?」
息が詰まりそうになる。憂介を助けてもらうためだったとはいえ、主人の鞍替えは目に見えた裏切りだ。決してそんな意図はなかったが、そう思われても仕方がない。そして、貴方のためにそうした、なんて、口が裂けても言えそうにない。
黙ったままの私に痺れを切らしたのか、嫌味たらしく続ける。
「悔しいなぁ。僕はこれから咬介のために働き支える君の姿を見続けなくちゃいけないんだから。僕が紅獅子を継げずに失脚し落ちぶれる様を、二人は高笑いし見届けるんだろう?」
「な、何言って……」
らしく無いほど自虐的で意気消沈した憂介に驚きながら反論する。
「そんなことない。それに、まだ次期当主は決まってないじゃない」
「じゃあ、僕が継げると美夜は思っているのかい!?入院で遅れもとって、咬介に借りをつくってるような状況で……」
憂介は続ける。
「叔父さんが言うように、この屋敷に居続けるため咬介の使用人になったの?誰にでも仕えるんだね。その服もさ、アイツ好みのもの着ちゃって。頼まれれば簡単に着るの?……もう肌も許したのか?」
私は愕然としワナワナと震え出した。怒りからか、悲しみからか。目には涙が溢れていた。一体どうしたと言うのか。絶妙に噛み合わず先程から恨みがましくのたまう憂介に、私は貴方のためにあの男に肉体まで捧げたのに、と不満と絶望が渦巻いていく。自己犠牲を否定されたようで打ちのめされそうになり、かぶりをふってそうじゃ無いんだと否定しようとするも、憂介は続ける。
「僕を信じて待っていてくれなかったんだね」
「違ッ……!私は、そんなんじゃ……!」
「悪いけど、今は君の顔を見れない」
そう言って背を向ける。憂介を裏切ってなどいないと主張したいが、事実アイツに抱かれたのだから、私は憂介の傍に居られる資格はない。……だけど、それを言うなら憂介だって婚約者がいることをずっと黙っていたのではないか。勿論その存在自体、優二郎様の狂言の可能性もあるが、その疑惑は拭いきれない。分かってもらえない苛々が募り、ついに言葉となって爆発した。
「……近々、私のことは捨てるつもりだったんでしょう」
私の言葉に京四郎は振り向き顔を上げる。
───いけない。こんなこと、言ってはいけないのに。
「そもそもお遊びだったんじゃないの?……だから私のことは抱かなかったのに、婚約者の女性のことは抱いたんだわ。違う?」
───いけない、早く戻って───!
「挙げ句の果てに子供まで作って!裏切ったのはどっちよ!」
───いけないったら!!───
叫んだために息が切れ、涙が溢れた。その様子に憂介は、
「子供……?何のことを言っているんだ。確かに僕は叔父さんが決めた婚約者がいる。だけど会ったこともないし、そんなことした覚えもないよ。……そんな妄言を、君は信じたのか?」
───ああ、嘘だったんだ。優二郎様が私たちの仲を割くためについた嘘。ホッとしたい筈なのに、裏切ったのは自分だけだという事実に落胆し、絶望する。優二郎様の策略にまんまとひっかかってしまい、愛を疑い試してしまった。それが、私の罪。




