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9-3

安寧の日々に終わりが訪れたのは、それから間もなくだった。玄関から誰かが入ってきた音が聞こえたため、私は慌てて階段を駆け降りて一階へ向かう。そこには、退院し戻ってきた憂介の姿があった。


「───!憂介!!」


憂介は私の姿を見ると、両手の荷物を全て投げ出し駆け出した。


「美夜!!」


全ての階段を駆け降り、勢いよくその腕に飛び込もうとした。

その時。憂介の眼が紅く光っているのを見て、思わず身体が固まった。


───まるで、咬介に見られているような。全てを見透かされ、責められているような───。そんな鋭い紅の眼に、私はその場から動けなくなった。


憂介の後ろに優二郎様がいることにも気づき、私の姿を見て言った。


「美夜……!?何故お前が、まだここに……?出ていけと命じたはず」


優二郎様は訝しげに言い、三人の間に気まずい空気が流れた。


「俺が残れって言ったんだよ」


咬介が大階段の最頂部から射るような声で述べ、ゆっくり降りてくる。そして背後から覆い被さるようにして私の手首を掴み、身動きを取れなくさせると、


「よう憂介。お早い帰還だな。その眼、似合ってんぜ。俺様の血を受けてようやくお前も開眼したようだな」


私の両頬を掴み、見せしめるようにして言う。


「お前の抱え込みだったこいつは、俺のもんになった。俺専属のメイドだからこのままこの家に住まわせる。いいよな?」


私は体を硬直させ、なされるがままの状態になり顔を蒼白させた。


「お前は一度こいつを捨てた。俺はそれを拾ってやっただけだ。だから俺がこいつに何をしどうしようと文句はないな?」


そう言って右の手を胸に掛かったエプロンの下に忍ばせ揉みしだいた。憂介の目の前で、さも当然のように行われた行為に嫌悪感と羞恥心が襲い、拒絶を示す。


「いッ、嫌ッ……!!」


強い力でふり解こうとするより先に、憂介が掴みかかりその手を振り払った。ワナワナと体を震わせ怒りを抑えている。その様子に咬介は笑いながら、


「病み上がりで無茶すんなよ御坊ちゃま。それに俺に楯突く気か?」


両者は睨み合い、一触即発の空気が流れる。憂介やめろ、と優二郎様が制止に入った。命を救われた以上、上下関係は火を見るより明らかになってしまった。咬介は高笑いしながら去っていく。私たちは三人残されたまま、気まずい沈黙が流れる。最初に口火を切ったのは優二郎様だった。


「美夜、なんだその格好は。まるで娼婦のようではないか。お前は憂介を裏切り、あ奴へついたのか!」


私は顔を上げ即座に否定する。


「違う!私は憂介様を裏切ってなんか……!ただ、ここへ置いてもらえるって……」

「居場所ができれば誰にでも尻尾を振る雌犬が」


散々な言い草に、憂介が静かに止めに入る。


「叔父さん、やめてください。……僕は気分が悪いので部屋へ戻ります」


そう言ってフラフラと自室へ入っていった。優二郎様も一瞥してから部屋へ入って行き、私はしばらくその場に立ち尽くしていたが、誤解を解くために思い切って憂介の部屋まで行くことにした。


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