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9-3

⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎⚪︎⚪︎⚫︎⚪︎


屋敷の中で咬介と二人で過ごすようになって早二週間が過ぎようとしていた。私は毎日の仕事をこなしつつ憂介の経過を気にして、なんとか情報を得ようと咬介に伺いを立てようとするも、鋭い目で睨まれ結局何も聞けないでいる。

咬介はいつも夕方頃に帰ってきて食事を摂ると、あとは酒を飲むために自室に籠る。最近は酌を求められるため呼び出されることもあり、その度に私も部屋に向かうのだが、意外にも何もしてこない。

昨夜も酌をしながら侘助さんたちに関する話や明日の食事の話をし、飲み終えると、もう戻ってもいいと言われ拍子抜けした。


憂介の経過も気になるが、私は咬介のことも気にしていた。半分以上の血を憂介に分け与えたはずだから、咬介も本来なら、瀕死に陥っているはず。だから私が星の力を与え、回復に努めるため咬介に抱かれる必要がある。


……いや、別に、ただ津液を与えるだけだからそこまでする必要は本来ないのだけれど。

だけどあの悪夢のような日を境に、咬介は特に私のことを求めてこないのだ。


戻れと言われてもその場を動ずじっと顔を見つめる私に、笑いながら、


「なんだ?お前。帰らないなんて、俺を誘ってるつもりか?」

「馬鹿!そんなんじゃないわよ!……ただ、その、……大丈夫なのかなって……」


「あの野郎のことか?だったら……」

「そうじゃなくて、貴方のことよ……。いっぱい血を分けたんでしょ?普通だったら死んじゃうような手術だったって聞いて……」


咬介はじっとこちらを見たまま、しばらく固まり動かない。そしてクックと喉を鳴らし、


「安心しな。俺はそこまでヤワじゃねぇよ。それに、血が多すぎて医者もびっくりしてたくらいだ。抜いてもらって調子いいぜ」

「またそんなこと言って……」


まるで軽口をたたく子供だと呆れると、


「本当だ。恐らくお前を抱いたときにかなり力も血も増幅したんだろ。お前の星の祝福の力は生命力を司る───とか言ってやがったし」


ずい、と正面に近づき、


「そういや手術が終わったらまた祝福の力を与える約束だったな?」


あの日を思い出し、体が強張る。また手篭めにされ内臓が抉られるような痛みを感じなければいけないのかと思うと、怖くて背筋が凍った。


「おいチンクシャ、こっち来い」


緊張の面持ちで向かうと、ベッドに座るように言われ素直に従う。膝の上に頭を乗せ、そのまま体重を預けてくる。


───これ、膝枕じゃない。咬介はものの五分もかからぬうちに寝息を立て寝てしまった。することが無く手持ち無沙汰になった両手で、まっすぐな黒髪を撫でてやる。意外に長いまつ毛に彫りの深い顔。疲れているのか、少し動かしたくらいでは起きそうもない。


いつまでこんなふうにゆったりとした時間が続くんだろうか───。自分は暇を出され、本来はここにはいてはいけない身だが、咬介に仕えると言う名分で置かせてもらっている。憂介が帰ってきた時に、憂介にも優二郎様にも何を言われるのかと思うと気が重い。


だけど、行くあてもない私をこうして咬介が助けてくれたから、私はここにいられるんだよね───。

それに誰に仕えようと、私は憂介が問題なく紅獅子財閥の次期総帥になれるように、元老院派の動きを見張る必要がある。


咬介は憂介の命を助けたことで次期当主の座を巡る競争に大いに前進し、保守派を牽制したといえるだろう。

憂介たち保守派は今が正念場だろうが、私は正直、自分は憂介と咬介のどちらが紅獅子を継いで欲しいのか分からなくなっていた。それは白夜会で自分の窮地を救ってくれたことや、憂介の命を助けてくれた咬介に対する意外な一面を知ったからであり、最低な形で貞操を奪われこそしたが、それでも以降は無理やり抱こうとしてこない。それどころか時折優しささえ感じることもある。


一体この人は、どんな人なんだろう───。

私は膝元で静かに寝息を立てる男を、じっと見つめた。


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