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お待たせしました、と茶を運ぶと、憂介様も優二郎様も食べずに待っててくれた。ああそんな、あったかいうちに食べて下さってよろしかったのに、と告げると、
「美夜がいないと寂しいからね」にっこり笑う。
「勘違いするなよ。茶がないと始まらぬだけだ」目を閉じ厳しく伝える優二郎様。
食卓につくと、三人でいただきます、と手を合わせ食事にありついた。メイドであったとしても同じ食卓で食事を摂るというのは、憂介様が決めたルールだ。静かに咀嚼していると、優二郎様が話し出した。
「───わかってはいると思うが、来月には白夜会が行われる。心して挑めよ」
「……はい。心得ております」
「白夜会?」
思わず会話に入ってしまい、優二郎様は邪魔されて苛立ったのか、こちらを睨んだ。萎縮する私に、憂介様は優しく微笑みながら、
「美夜は知らないか。白夜会っていうのは、紅獅子財閥経営者一族、幹部、中枢が一堂に集まって、決算報告や今後の展望、そして重要な取り決めを行う会合みたいなものだよ」
「特に今回は今までのものと規模が違う。長年にわたり当代不在の紅獅子財閥の、次期総帥を決める重要なものだ。近年不穏な動きをする元老院派との一騎打ちになるだろう。奴らは剣妖討伐の腕こそ低いが、油断できん」
優二郎様の低く重い言葉に、憂介様は黙ったまま、視線をテーブルクロスの汚れを見つめている。話についていけずオロオロする私に、優二郎様はため息をつき、簡単に説明してくれた。
憂介様は紅獅子財閥の次期正統後継でありながら、現当主ではない。先代当主であった憂介様の父、優一郎様が不慮の事故で奥方と一緒に亡くなったのが十二年前。以来、本来であれば憂介様が次期当主として指揮を執るところを、まだ幼いということもあり、特例ながら一度その座を退いた憂介様の祖父が、再度当主兼総帥としてその座に就いた。そして今回、ついにその座を憂介様に譲るための大事なセレモニーを兼ねている為、ホテルを貸し切り大規模な集会になるという。
ただ一つの懸念は、この現総帥が特に目をかけている、通称『元老院派』と呼ばれる経営陣たち。世襲制である一族経営の腐敗を指摘し、一派擁する精鋭を次期総帥へと推す動きが確認されている。要は、一族を追い出し紅獅子財閥を自分たちが乗っ取らんとするクーデターを画策している、ということだ。
「あの~、叔父さん、そのことなんだけど、その総会に美夜を連れて行ってもいいですか?」
思いがけない提案に、飲んでいた茶を吹き出しそうになった。優二郎様も同様に、目を白黒させている。
「僕と叔父さんだけじゃ心細くって。付き人って形で……もちろん、ちゃんと振袖を着せて、メイドの身分は隠しますから」
「何を言っているんだ。くだらん。分をわきまえろ」
「でも、それじゃあ僕何もかもうまくできない気がするな~。とちって転げて失敗して、目も当てられなくなるかも」
一体なにを言ってるの。顔を青くさせて恐縮する私に、憂介様は、そんなことお構いなしといった表情を見せながら笑う。呆れたような表情を見せると、
「……まぁ付き人兼世話係というのなら構わん。ただし、紅獅子家を背負っていくんだ。威厳を損なうなよ」
「は、はいっ!」
慌てて頭を下げ、答えた。ああ、そんな大事な集会に、私みたいな下賤の者が行っていいのかなぁ……。
優二郎様はため息をつきまじまじと憂介様の顔を眺めると、
「……お前、顔色が優れないが大丈夫か?なんだか痩せた気もする」
「そうですか?元気ですよ。今日も今から道場で一汗かこうと思って───」
相変わらずヘラヘラ笑う。うん、思い過ごしならいいんだ、と言って、優二郎様はまた茶を含んで視線を逸らした。
「───!」
憂介様が、テーブルの下、見えないところで手を重ねてくる。視線はそのままで、何でもないように。私も静かに握り返すも、心臓はバクバクと強く響いており、目の前の優二郎様に悟られやしないかと気が気じゃなかった。
───ああどうか、財閥の御曹司である憂介様と、孤児の使用人である私の関係が、誰にもばれませんように。この恋が、たとえ悲しい結末に終わってしまうとしても。今この瞬間だけは、誰にも邪魔されることなく、愛を貫けられますように。
心の中で小さく祈った。




