8-2
「おい」
不意に呼ばれ、思わず肩をビクつかせた。
「あの野郎のこと考えてるだろ。俺が約束を無視したら、って。それにもう側にいられないから何処かへ消えようなんて考えてるんじゃねえだろうな」
図星を突かれ黙っていると、咬介は隣に座り傲岸な態度をとりながら、
「これきりだと思うなよ。俺がこれから時間をかけてお前を女の肉体に調教してやる。消えるなんて、俺が許すと思うな」
「なっ……!」
顔を赤くしワナワナと肩を震わす。
「安心しな。憂介のことは助けてやる。だがな、その後のことは知らねえ。これから元老院派が仕掛けてくるだろう。病み上がりのアイツがどこまで保つか見ものだな」
喉を鳴らし笑う。私は必死に袖を掴み懇願した。
「そんな……なんとかしてよ。憂介だけじゃそんな……」
「だったらテメェが止めるんだな。側に居て阻止すれば良い」
ぐ、と反論しようとした言葉を呑み込む。そうしたいのは山々だが、自分は憂介を裏切ってしまった───。側にいる資格などないのだ。咬介はその様子を見つめ、ずい、とにじり寄り言う。
「約束通り、今日からお前は憂介じゃなくて俺のメイドだ。そうすればこの屋敷にも置いてやるし、憂介の側にいてあの野郎を守ることもできんだろ。但し俺に絶対服従───それだけは忘れるな」
私は悔しさで睨みつける。その様子を満足げに見つめると、
「お前が大人しくしているうちは今日のことも黙っててやるが、あまり反抗的な態度をとるとあの野郎に、お前のあんな場所にある黒子のことうっかり喋っちまうかもしれねぇな?あまり図に乗るなよ。いいか、お前の肉体を拓いたのはこの俺だ。あの野郎じゃない。お前の主人は今日から俺だ。わかったなら変な気を起こすんじゃねぇぞ」
「───卑怯者!」
精一杯の反抗の言葉だったが、まるで響いていないようだった。そのまま高笑いして部屋へ戻っていき、ぽつんと一人残された。絶望の顔で項垂れ、悔しさと不甲斐なさで涙がまた滲んだ。痛む身体を労るように膝を抱えるも、それでも腹は減り、目の前のお粥を全て平らげた。そしてふと、なんでわざわざお粥なんて作ったんだろう、と疑問に思う。
───もしかして、私のこと気にかけてくれた……?
さっきまで処女で、初めてだったから血が出たし、気を失うほど無理をした。咬介も、まさかそんな相手だと思わず無茶を強いたことにお詫びとして用意してくれたんだろうか。いや、だったらあんな酷いこと言わないだろうし、おかげでキッチンは黒焦げで使い物にならなくなってしまった。やっぱりアイツが私に優しくしてくれることなんてないわ───。
思い直して、食器を片付けると自室に戻った。




