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翡翠の乙女と双頭の紅獅子  作者: 棗健
獣の仲間
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28/78

8-1


目が覚めるとすでに辺りは暗くなり始めており、布団を掛けられた状態で咬介のベッドで寝かされていた。

起き上がり、今し方自分に起きたことを思い出すと、涙が溢れ出てきて顔を覆い、静かに泣きじゃくった。昼過ぎからずっと気を失っていたようで、全身の痛みと乱れた自分の格好で、先ほどまでの悪夢のような出来事が現実だったのだと思い知らされる。


───私の反応で、私が憂介様とは清い仲であったことをあの男に悟られただろう。

憂介様は、私のことを抱いたことがなかった。私のことを大切にしてくれていると思っていた。

だけど本当は判っていた。憂介様は、身分違いの私と添い遂げる気は、きっとなかったのだ。だから手を出してこなかったのだ……。


「初めてが、あんな男なんて……」


悔しさと全身の痛みで叫び出したいのを抑え、

なんとか体を起こしてシャワーを浴びに行くべく、自分の部屋へと向かった。


部屋に着いて服を脱ぎ、ふと鏡を見ると、幽霊のように青白い顔のやつれた女が映っていた。しかも身体中には紅い痕が散らばり、首には歯形がついているし、押さえつけられていた腕は手形がくっきりと残っていた。男の圧倒的な力の前に屈服し、なすがままにされ、誇りも何もかも失った憐れな自分。憂介を救うためとはいえ、私がしたことは本当に正しかったのだろうか?恥ずかしくて情けなくて、……そして罪悪感で、憂介に顔向けできない。こんな思いをするなら、知られる前にいっそこのまま消えてしまった方が───。


思い詰めていると、なんだか煙たい空気が迫っていることに気づき、恐る恐る部屋のドアを開けてみる。すると辺り一体を灰色の煙が覆い、一歩先すら見えなくなっていた。


「何!?───火事!?」


慌てて出どころを探すとキッチンから酷い煙が激しくあがっており、駆けつけるとそこには咬介がひとり、バツが悪そうに立ち尽くしていた。


「え……あなた、何して……きゃああ!」


キッチンが、見るも無惨に焼け焦げており水浸しになっていた。火事になりかけていたのを慌てて水で消したのか、燻って焦げた塊がぷすぷすと音を立てている。一応火は消えているため消防を呼ぶ必要はなさそうだが、力が抜けてその場にへたり込んだ。


わ、私のキッチンがぁ、と零すも咬介は何も言うこともなく渋い顔をしたまま。

優二郎様に出て行けと言われた矢先にキッチンを台無しにしてしまって、ああ、殺されるかもしれない。どうしてこんなことに、と睨むと、


「お前……腹減ってたらあれ食べろ」


そう言って指差す先には、器に盛られた白飯。水っぽくてぶよぶよになっており量も多いく器から溢れかえっている。


「な、何、これ……」

「……………粥」


お粥?わざわざこれを作るために、キッチンでボヤ騒ぎ起こしたの!?と呆れ半ばに、アンタそんなにお粥食べたかったの?と訊くと、バカ女が、と言われ顔を背けた。先ほどの黒い塊はどうやら焼き魚だったようで、悲しいことにその面影すらない。ため息をつきながら、


「食べたいものがあるなら私を起こせばよかったじゃない」

「…………」


咬介は黙ったまま答えない。お粥を口に運んでみたが、しょっぱい癖に水っぽくて、お世辞にも美味しいとは言えない。


「鼾かいて熟睡してたやつ起こせるかよ」

「なっ……!かいてないもん!……それに仕方ないでしょ!?……あんな酷い目に遭った後だったんだから」

「……」


「……とにかくこんな状態じゃ修理に来てもらうしかないわね。しばらく料理できないわ。どうしよう」

「いいからもうそれ食って休め」


───休め……?


疑問に思い黙って食べ続けるも、私の意識はすぐ別のところへ移動した。咬介は、ちゃんと約束を守って憂介を助けてくれるのだろうか。あんなに憎み合っていた相手に、義理を果たしてくれるのだろうか……。もし反故にされたら、私は……。


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