7-1
あれからさらに日が経ち、誰も帰ってこない屋敷に、私は一人掃除だけして過ごしていた。
憂介を助けられなかった私は、月末までには出ていくようにと言われている。あれが最後になるのは心苦しく後ろ髪引かれる思いはあったけれど、荷物を纏め、持っていけないものは部屋の隅へ移動させ処分を待った。トランクケースひとつ。持ち出すのはたったこれだけだ。なんて寂しい幕引きなんだろう。紅獅子財閥は、咬介たち元老院派に乗っ取られるのか。今となっては、その結末さえ知る術はない。
このまま理由なく月末まで居座る気も起きず、明日にでも出ていこうと決めた。鍵は、後日郵便で送り届ければいい。
ふと思い立ち、先代の肖像画を見に大階段までやってきた。
焔のように燃える紅眼───……。紅獅子の血縁を物語る、神聖な瞳。咬介が持つ、今この世に恐らく唯一つのみ存在する、獅子の眼───。
憂介はついぞその紅眼を開眼することがなかった。先代の奥様も、きっと息子である憂介がいつまでも開眼しないことを周りに責め立てられたり、あるいは不義の子だと、あらぬ冤罪をかけられ糾弾されたのだろう。旦那様と奥様は運転中の事故死とのことだったが、精神的に追い詰められていた奥様が横からハンドルを切った、という噂もある。
廊下には私が守った奥様の肖像画が掛かってあったが、これも私が去った後、処分されてしまうのだろうか。
「守ってあげられなくて、ごめんなさい……」
先を憂い俯きぽつりと呟くと、
「何やってんだ辛気くせえな」
急な声に驚き振り返る。すると咬介が煙草をふかしながら立っていた。
いつの間に屋敷に入ってきたんだろう。白夜会からなので半月程度会ってないだけなのに、随分と久しぶりな気がする。
「お前だけか。あのおっさんはどうした」
「……優二郎様はしばらく帰ってこないと思うわ。元々お忙しい方だし、ここ以外にも住む場所はあるようだから」
そう言ってしばらく沈黙が流れると、咬介の方へ向き直った。
この男は、憂介が枯渇血病であることも、そのおかげで紅獅子財閥が競わずとも自分のものになることも知らないのだろうか。仮に知っていたとしても、自分が死ぬかもしれない危険な手術をしてまで、憂介を助けてくれることなんてないだろう。敵にみすみす塩を送るなど、あり得ない───。




