6-3
病院からの帰り道、優二郎様が運転する車の中で、私たちは沈黙していた。外は雨が降っており、強い雨音が静かな車内に響く。重苦しい空気の中、私は口を開いた。
「……優二郎様、星の力が使えず、申し訳ありませんでした」
優二郎は何も答えず、ハンドルを握ったまま進み続ける。
「……私は屋敷を出されても仕方ありません。……ただ、一つだけ……提案させてください。枯渇血病の治療法として、有効な方法があります。それは……」
「血縁者から血を分けてもらう方法……だろう」
やはり優二郎様も知っていたのか。なら話は早い。助手席から身を乗り出し、
「そうです。憂介のお父様である優一郎様の弟である貴方様なら、血縁者としてお力になって頂けますよね!?」
「ならん」
にべもなく答える。
「お前は何も知らなさすぎる。……その方法は提供側にかなり負担を強いることになる。死ぬ可能性だってあるんだ」
「……」
「……それに……。誰にも……憂介にしか言ったことはなかったが、私は養子で先代とは血が繋がってない。……だから憂介とは血の繋がりがない。だから、私から血を与えることは叶わん」
「そん、な……!」
私が兄を救えなかったときと同じ理由で、叔父であっても憂介を救うことはできないのか。
泣き出してしまいそうになったが、こらえた。まだ方法はある。
「な、なら……!咬介に頼んでみましょう!アイツなら、半分だけでも憂介様と血が繋がっております!もしかしたら憂介を救ってくれるかも……」
「ならんと言っているだろう!!」
急ブレーキを踏み、大きな音を立てハンドルを殴った。その勢いで私の首を片手で掴み、締め上げた。苦しさの中、優二郎様は続けた。
「あの男が協力してくれるわけがないだろうが!それどころか、あの男の血統を証明することになる!!それだけでない。あの男擁する元老院派に大きな貸しを作ることになって、益々我々は窮地に立たされる。あの男が、紅獅子の……先代の落とし種であっていいはずがない!」
何を言っているのか理解できず、怒りと絶望で頭が真っ白になる。まさか、咬介は紅獅子と関係のない赤の他人だというシナリオを描くために、ただそれだけの為に、憂介を見殺しにするというのか。
「何を……言ってるんです!そんなこと言っている場合ではないでしょう!?だって憂介は、あなたの甥じゃないですか!大切な家族でしょう!」
ようやく手を離し解放されるも、優二郎は混沌とした目つきで続ける。
「───戦争孤児だった私を拾ってくれた現総帥に報いる為、私は紅獅子財閥を世に遍く大企業として磐石の地位を築き、覇権を取るまで支え、尽くす。そして憎き剣妖をこの世から一匹残らず殲滅させる。そのためにこの紅獅子家を繁栄させることこそが、私の使命。宿命なんだ!……それなのに、憂介ときたらあの齢になってもまだ開眼もせず紅獅子の跡取りとして不充分だ。折角あの場で、白兎刀を使って剣妖討伐の機を与えてやったというのに」
「……!あれは、優二郎様が……!?」
「そうだ。思った以上に被害が出たがな。あそこで襲われるお前を華麗に救助し、憂介の株を上げる作戦だったのに、あろうごとか救けたのは咬介の方。しかも憂介は病で倒れるときた。私の計画がぶち壊しだ」
「なんて……酷い……何人の方が負傷したと思ってるんですか!」
「五月蝿い。使用人の分際で私に楯突くな。しかもあの男に憂介の命乞いをするだと!?お前はわかって言ってるのか。万が一にでも手術が成功し憂介の命が助かったとしても、あの男はその見返りに次期総帥の座と紅獅子の全てを要求してくる。今、憂介ではなくあの男が総帥になるとどうなると思う!憎き元老院派にその地位も財産も全て奪われたらどうする!私の肩には、保守派全員とその家族、そして神聖な紅獅子の血脈がかかっているんだ!」
己の使命を信じて疑わず盲目になっている優二郎様に、私は愕然とした。それは紅獅子の血筋を守るよう洗脳された男の、哀れな姿だった。




