6-1
白夜会の騒動から半月ほど経とうとしていた。
次期総帥を決めるための会合は剣妖の出現によりそれどころではなくなり、多くの負傷者を出した。病院へ緊急搬送された憂介はそのまま入院となってもう何日も会えていない。私は何度も見舞いへ行こうとするも門前払いを受け、病状も教えてもらえなかった。
屋敷の窓から憂介がいる病院の方角を眺めてはため息をつく、もう何日目だろう。優二郎様もあの日以降屋敷に帰って来ず、咬介も姿を消し、広い屋敷の中私はぽつんとひとりぼっちで、それでも体を動かし悪いことは考えまいと毎日家事をこなしていた。
数日後、優二郎様は帰ってくるなり私を居間に呼び寄せた。二人で話すのは久しぶりだが、嫌な予感がずっと胸の中を占拠している。しばらくすると、神妙な面持ちで切り出された。
「───美夜、剣妖に襲われた怪我はもう大丈夫か?」
「あ……はい。私は全く。ただ、憂介様の容態はいかがなんでしょうか。どうして私に何も知らせてくれないんですか」
優二郎様は黙ったまま答えない。代わりに言われた言葉は、残酷なものだった。
「今月内で、この屋敷から出ていってほしい。───すまない。今まで尽くしてくれたのに。退職金はしっかり用意するし、新しい仕事を見つけるまではできるだけ力になるから」
突然のことに言葉を失う。
「そんな……どうして……」
突然の解雇に目の前が暗くなった。掠れる声をなんとか絞り出し、
「それ、は……、憂介様の容態と関係あるんでしょうか」
「ああ。……ときに美夜。お前はお兄さんがいたね」
脈絡もない優二郎様の言葉に、混乱しながらもはい、もう随分前に病気で亡くなりましたが、と返す。
「そのときの病名を、覚えているか」
「はい。───世間では枯渇血病、と呼ばれているものです」
兄は、血が失くなっていき最後には全身がカラカラに乾きミイラのような姿になって死んでいった。原因不明の病で治療法は少なく、幼かった私は何も出来ずにただ毎日衰弱していく兄を見て泣いて過ごした。
「っ、……!まさか、」
「───そうだ。憂介も、その病に罹っている」
足元が音を立てて崩れるような感覚がした。長い間そのままだったような気もするし、ほんの一瞬だったのかもしれない。それでも優二郎様の次の言葉が理解できるようになるまで、動揺と混乱の中息することさえ忘れかけた。
「こないだ検査してはっきり分かったよ。……このままだと、一年も保たないらしい」
あまりの衝撃に倒れ込んでしまう。そんな私を気遣いながら、優二郎様は続ける。
「───お前を雇っていたのは憂介だ。憂介は星の祝福を使えない役立たずのお前を情けで側に置いていたが、憂介が居なくなるならお前を置く理由はない」
「そんな……」
容赦ない優二郎様の言葉に、縋り付くようにして言う。
「せめて、憂介様に会わせてください」
今会わなければ、もうこの先二度と会えないかもしれない。
「ならん。絶対安静だと言われている。───だが、お前が星の祝福を使えるとあらば話は別だ」
憂介様は続ける。
「翡翠の乙女が持つ星の祝福。世の理と生命を司る星の力があれば、失い枯渇した血液を増幅させ、憂介を治すことができるかもしれない」
───酷なことを言う。私が憂介様にお仕えした五年間、星の加護が使えたことなどないことは、近くで見ていた優二郎様が一番よく知っているではないか!
「……私には、星の祝福など使えません」
「果たしてそうかな?先日の白夜会で、咬介はお前と接触した後超人的な力を得ていたじゃないか。あれが正しく星の祝福の力だとすれば……お前はようやく覚醒したのだ。今こそ、その力を紅獅子の為に使え」
優二郎様は近くに来ると、
「いいか?これは取引だ。お前の力で憂介を救えなければ、ここから出ていってもらう。もし救けることが出来たなら、今まで通りここに住んでもいいし憂介とのことは眼を瞑っておいてやろう」
バッと顔を見る。優二郎様の軽蔑と憎しみの目が、こちらを睨みつけていた。
「お前たちがそういった関係であることはずっと前から気づいていた。子供のお遊びとして不問にしてきたが、これ以上、紅獅子の血を汚す不穏分子は要らない」
そう言って出ていき、部屋に一人取り残された。




