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私は母も父も覚えていない。物心ついたときには孤児院にいたし、そのころから世話を焼いてくれていたのは兄一人で、その兄も実は血は繋がっていなく本当の兄妹ではないと言っていた。それでも私たちは血の繋がりなど関係ないと、あまり気にせずに毎日を過ごしていた。
その兄も、数年前に病で死んでしまった。まだ幼い私には、何も出来なかった。
「……他にも探してみたら、お母さんとの思い出が見つかるかもしれない。別に、私がいるときはまたこの部屋に来て探してもいいし、いつでもそのメッセージを見に来てもいいから」
勝手に咬介の部屋で刀を探索した負目から、提案を申し出た。それだけでなく、お母さんを想う意外な姿にちょっと情が湧いたのかもしれない。
私の提案に咬介は意外そうにすると、
「……フッ、お前、誘ってんのか?部屋に男入れようとするなんて。淫乱」
「バカ!その時は今みたいに扉はちゃんと開けたままで、何もしないって約束するのよ!」
腕を組みフン、と外を向く。少しはいい奴かもしれないと思ったのに、やっぱり情なんてかけてやらなきゃよかった。
そろそろ夜も更けてきたんだから帰ってよと言い、背中を押して咬介を部屋から追い出す。そのとき、昼間に絵を燃やされそうになったことを思い出し、思い切って言ってみた。
「……貴方がお母さんのこと大事にしてることはわかったわ。だから、どうか憂介のお母さんのことも許してあげてよ。貴方にとっては憎い相手かもしれないけど、大切な人、てことは憂介も同じよ」
眼をジッと見つめて言う。咬介は私の瞳を見つめ返すと、
「……お前やっぱり面白ぇ女だな」
そう言いフンと鼻を鳴らして、自分の部屋に戻っていった。
長い廊下に姿を溶かし見えなくなると、扉を閉めその場にへたり込んだ。心臓はまだバクバクと音を鳴らしており、部屋に鍵をかけると、フラフラとベッドに横たわった。
怒涛の一日だった。拘束された手首は今も赤く痕がついている。最後までされなくて、本当によかった───。
色々なことが起こった1日だった。昼には殺してやりたいくらい憎い相手だと思ったし、襲われそうになったときは本当に殺されるんじゃないかと思った。
だけど、あのお母さんのメッセージを愛おしそうに眺める目つきと表情を見ると、もしかしたらこの人はそんなに悪い人じゃないのかもしれないとも思った。
───いいや、何を言ってるんだ。あの男は憂介の敵。紅獅子家を乗っ取ろうとしている、詐欺師で悪魔だ。
考えを改め、もう休むために意識を飛ばすと、途端に眠りの淵に引き摺り込まれる。




