4-3
慌てて抵抗しようとするも、簡単に組み敷かれ首元を噛み付かれる勢いで吸われた。着物の袂は開けられ、手は頭上で拘束され動かない。
どうしよう恐い!誰か助けて……!
初めて直面する大人の男の力に、嫌だやめてと絞るような声で叫び嘆願するも、容赦はなく行為は続けられる。
恐怖で爆発しそうな頭を必死に絞る。何かないか。この男を止められる、何か切り札となり得るようなものは……!
一つの光明が閃くと、叫んだ。
「私の部屋!私の部屋に、見つけたのよ!」
咬介はぴたりと動きを止めた。
「私の部屋に、貴方宛てだと思うメッセージがあったわ。きっと貴方のお母様の。放してくれるなら案内する!だからやめて許して!」
咬介は手を緩め、その隙に私は後退り、体裁を整えた。
恐らくだが、この男が家に来た日、私の部屋に来たのだってお母さんの痕跡や遺した思い出を探すため───。
あの写真に映る女性。美しくたおやかなあの女性が、おそらく咬介のお母さん。きっと今、あの部屋に彫られたメッセージが切り札になる。
「莫迦か。そんなモンお前がいないとき簡単に───」
「壊すわ。今ここで案内させてくれないと、明日には無くなってるかもね!?さぁ、どうする!?」
窮鼠猫を噛む。二者は睨み合い、時間が流れる。長い沈黙の後ついに陥落したのは、咬介の方だった。
チッ、早く案内しろと吐き捨てると、ようやく解放してくれた。ひとまず首の皮一枚繋がった。安堵の息を吐き、着物の袂を正す。
───助かった。ああ、名前も知らない咬介のお母さん、ありがとうございます───。
会ったこともない写真の女性に心の中でお礼を言った。
夜ももう更けていたが、ランタンの明かりを手に一階の自室へ連れて行く。騒がしくしていたが、憂介も優二郎様も気づいていないのか屋敷の中は静かだった。
部屋のドアは開けたまま、ベッド下の小さな壁を指差す。
「……そこよ」
咬介はしゃがみ込み、年季の入った小さなメッセージを愛おしそうに触れると、急にしおらしくなり懐かしむように目を細めた。しばらくの間動かず、何度も反芻するように母からの言葉を見つめている。
昼間や先ほどの凶悪な姿からは想像もできないほどの大人しさとしおらしさに、思わずポツリと零した。
「───本当に、お母さんのことが好きだったのね」
アア?と睨まれて、無意識に口に出していたことに気づいた。相変わらず紅の眼の刺すような視線は恐ろしく、肝が冷える。けれど咬介の方も、油断し懐かしさで顔を緩ませているところを見られてバツが悪いのか、それともただ恥ずかしさからか、先ほどまでの恐怖が少し薄らいだ気がする。
心の声を口に出し聞かれてしまったのであれば仕方ない。開き直ると、
「別にいいじゃない。故人を思いやるのは悪いことじゃないわ」
「お前に何がわかる」
「わかるわ。……私も、たった一人の家族である兄を亡くしてるから」




