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翡翠の乙女と双頭の紅獅子  作者: 棗健
獣の弱点
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10/78

4-1

その日の夕食時、食事は全員で、という例に漏れず、憂介は咬介も食卓へ招待した。食事を運ぶ私の姿を見ると、


「あれ、美夜、いつも着ている黒の給仕服はどうしたんだい?どうして着物なの?」


憂介に問われ、まさか火に焚べましたなんて答えるわけにはいかず、目を泳がせながら、


「あー、汚してしまったので洗濯中なんです」


といって誤魔化した。対面の食卓に座る咬介の方を見るも、何も知らないように含み笑いするだけ。思わず怒りが込み上げるも、行き場のない感情はそのまま燻り、服を一着台無しにしてしまった事実に罪悪感が込み上げる。


「エプロンはしないとお前も困るだろう。明日はちゃんとするように。そういえば憂介」


優二郎様はそう私に叱りを入れてから、続ける。


「次の白夜会、紅獅子の御神刀を持参せよとのお達しだ。今回のような大規模なものは、お前が紅獅子の正統後継者であることを出席者全員に示す必要があるからな」


紅獅子は歴史と格式ある武神の一族。大規模な会合では、剣妖を滅する御神刀で居合と剣舞を披露し、繁栄と豊穣を祈るのが慣わしだ。

私も一度憂介にその刀を見せてもらったことがあったが、とても重厚感があり、一目見ただけで普通の刀ではないことが素人目でも分かる逸品だった。

つまりこの御神刀を持っていることこそが、正統な紅獅子の後継者である証でもあるのだ。

しかしこんな話を、咬介の前でするなんて……。これではまるで、牽制だ。

ハラハラしていると、咬介はクックッと笑いながら、


「なんだ?紅獅子の刀を持ってない俺は資格がないとでも言いたげだな」

「その通りだ」


張り詰める空気の中、優二郎様は毅然とし答える。


「お前のような何処の詐欺師とも分からん者が、白夜会に御神刀無しに来られると思うな」


すると咬介は間髪を入れず高笑いし、


「白兎刀……だったな」

「なっ……」


それは、憂介の持つ紅獅子の御神刀の名前。何故お前がそれを、と続けると、


「月を冠した白兎刀と対を成す、もう一振りがあること、お前等が知らないわけないだろうな?」

憂介と優二郎様は目を見開き驚愕した。


「───本来紅獅子の刀は双刀と呼ばれ、宝殿に奉られていた。それが先の戦争で、一振行方不明になったんだったな?」


まさか、その刀を、咬介が───!?


「莫迦を言え!まさかそんなはずはない!我々が長年捜索しても手がかりさえつかめなかったものだ!お前如きが持ち合わせているはずが───」

「黒烏刀」


二人が息を呑み、空気が張り詰める。私には分からなかったが、失くした一振りがその名前なんだろうか。


「太陽を冠した、俺の持っている刀だ。お前たちも名前くらいは聞いたことがあるな?お前らが詐欺師と嗤った男も白夜会に招かれているもんでな。さて、白夜会楽しみにしておけ」


咬介は笑いながら食事を終えると、自室へ戻っていった。

シンと静まりかえる食卓に、そんなはずは、そんなはずはない……と顔面蒼白になった優二郎様の声が響いた。

憂介の顔を見るとこちらも青くなっており、テーブルの上の手はブルブルと震えている。優二郎様はフラフラと部屋に戻って行き、私は、憂介と二人取り残された。空気は重く、何も発せられない。

今までは咬介は妾の子であることや、血統もすべて嘘でただ突然現れただけの詐欺師なんだと徹底抗戦することで、元老院派を一蹴できたかもしれない。

だがもし咬介が紅獅子の二つある御神刀のうちの一つ、黒烏刀を持っているとすれば……。

それは紅獅子の血を分けた正統後継の権利を有し、憂介に代わって、ヤツが次期総帥に成り得る可能性も出てくる。


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