シンデレラガールズオフ会in新宿
(あれ? この制服……うちの系列会社の研修生って聞いたけど……)
「昨日はどうもありがとうございました!」
「こちらこそ……偶然だったけど君たちと会えて良かったよ」
「実はですね……先輩にお願いがあって訪ねてきたんです!」
彼女はもじもじしながら小声で続ける。「今度のイベント……バックバンド担当者さんが急病になってしまって……代役が必要なんです」
(代役……?)
「もし良かったら、先輩のお知り合いとかいないですか? 昨日一緒に取材にいらしてたカメラマンさんとか、楽器できる方とか……」
なるほど。確かにあの撮影チームの中にはギタリスト兼ベーシストの人がいた。しかし、あの人忙しいんじゃないだろうか……
「うーん、すぐには難しいかもしれないな……」
「そうですよね……」
肩を落とす彼女を見て、胸が痛む。すると、遠くから近づいてくる足音。振り返るとそこには昨日共に取材に参加していたカメラマンさんの姿があった。
「お? 君たち何か困ってるのかい?」
「あっ! ちょうど良いところに……実は……」
事情を説明すると、カメラマンさんは顎に手を当てて唸る。「そうだなぁ……」としばらく考えてから、突然笑顔になった。
「それなら俺が何とかするよ。昔馴染みのミュージシャンに相談してみるさ」
その一言で彼女の顔がぱぁっと明るくなった。「ありがとうございます!」と深々と頭を下げる姿はとても真摯で、思わず俺も安心する。
「でも……こんな形でお世話になるのは心苦しいです」
「気にすんなって。お互い様だからな。君らには才能があるんだし、それを無駄にする方がもったいない」
カメラマンさんが彼女に笑いかける。彼女も嬉しそうに頷く。
(いい人たちだな……)
そのやり取りを見守りながら、改めて“応援”という言葉の意味を考えさせられた。自分もできることから少しずつ協力できればいいんだ。たとえチケットが当たらなくても、こうして裏方で力を貸すことで彼女たちを支えることができるのだから。
◇◆◇◆◇◆
その夜、俺は自宅でぼんやりテレビを眺めていた。全国ネットの音楽番組には、例の“Doll's Garden”が出演しており、緊張しながらも一生懸命パフォーマンスしている様子が映し出されている。
「ねぇ、あんたまたアイドル番組観てるの?」
「ああ……まあね」
姉さんが呆れたように言う。両親は既に寝室へ引き上げてしまったようで、リビングには二人だけだった。
「最近ハマってるみたいだけど、そんなに面白い?」
「面白いっていうか……なんか、こう……」
上手く説明できないまま言葉を濁すと、姉さんはため息混じりにカップコーヒーを啜る。
「でもまぁ、あんたが楽しそうにしてるのは良いことだよ。仕事ばかりで疲れ切ってた時期と比べたら雲泥の差だもん」
「そう……かな」
思い返せば確かに、去年までは業務に忙殺されて心の余裕などほとんどなかった。けれど今は可奈ちゃんやドールズガーデンの子たちがエネルギー源となり、少しずつ前向きになれつつある気がする。
「あんたもさ、たまには外に出なよ。引きこもってないで友達作るとか……」
「友達って……急に言われてもな……」
「じゃあアイドル好きのコミュニティとか入りなさいよ。今どきはオフ会とかあるでしょ?」
「え? オフ会?」
──確かにSNSでは頻繁に「オフ会募集」という書き込みを目にするが、参加したことは一度もない。そもそもそんな社交性は持ち合わせていないし。
「でも、怖くない?」
「最初は誰だって緊張するわよ。だけど、一度行ってみたら意外と楽しいかもよ。同じ趣味を持つ仲間がいると世界が広がるから」
「うーん……」
悩みながらもスマホを手に取る。Twitterを開いてみると、「シンデレラガールズオフ会in新宿」という投稿がタイムラインに流れていた。
《参加者募集中!テーマは「ツアー応援計画」と「推しメン語り」。飲み放題付きで楽しく交流しましょう!》
(オフ会かぁ……行ってみたい気もするけど……)
ためらいつつも、指は自然と「参加希望」のボタンを押していた。
──やってみる価値はあるかもしれない。ここで一歩踏み出さなければ、このまま何も変わらないし。
◇◆◇◆◇◆
翌週末。新宿駅近くの居酒屋チェーン店にて「第3回シンデレラガールズオフ会」が開催された。予約制のため、時間ちょうどに到着すると店内には既に20人以上のファンたちが集まっている。
受付で名刺代わりのプリペイドカードを受け取り席につくと、隣に座っていた中年男性がにこやかに話しかけてきた。
「初参加ですか?」
「はい。えっと……よろしくお願いします」
「こちらこそ。僕は神田と申します。普段は地方勤務ですが、今日は仕事のついでに参加しました」
神田さんという人は温和そうな雰囲気で、すぐに打ち解けられた。乾杯が済むと、各自好きなテーブルへ移動して自由にトークが始まる。壁にはシンデレラガールズのポスターが貼られており、BGMも彼女たちの楽曲ばかり流れていた。
(なんだ……こういう場って意外と落ち着くんだな)
ドリンクを傾けながら周りを見渡すと、若い女性ファンや親子連れ、老齢の男性まで様々だ。その誰もが熱く語り合い、時に涙ぐんだり、笑ったりしている。
「僕は特に城ヶ崎美嘉と多田李衣菜の絡みが好きで……」
「私は杏ちゃん推しですけど、最近可奈ちゃんにも目覚めまして……」
「うわー分かります! 可奈ちゃん、可愛いですよね!!」
──可奈ちゃん!? 俺も思わず反応しそうになるが、グッと堪えて会話の輪に入っていく。どうやら可奈ちゃんに関して語り合う人は多く、あちこちで“可奈ちゃん派閥”が形成されていた。
(やっぱり人気あるんだな……)




