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シークレットユニット

可奈ちゃんは最初こそ緊張した面持ちだったが、ファンからの「可愛い!」「歌聴きたーい!」といった声援を受けながら笑顔になっていく。そしてスタッフさんの合図で店内BGMが変わり、彼女のソロ曲『桃色片想い』が流れる。


「えへへ、実はここで生歌披露しちゃいまーす!」と彼女が告げた途端、周囲の空気が変わる。アイドル特有の澄んだ高い声が店内に響き渡る。シンプルなコード進行なのに、その一音一音に込められた感情の重さを感じ取り、胸が熱くなった。


歌い終わるとまたしても大歓声。可奈ちゃんはぺこりと頭を下げて一礼したあと、店内をぐるっと見回しながら挨拶をしていく。


「いつも応援ありがとうございます!これからも頑張るので見守っていてください!」


そう言って微笑む彼女の瞳には涙が滲んでいるようにも見えた。そしてふと──その視線が俺の方へ止まった気がする。


(……あれ? 気のせい?)


いや違う。確かに俺を見ている。視線が重なり合った瞬間、彼女はほんの一瞬だけ唇を綻ばせたように見えたのだ。


その刹那、俺の全身を熱いものが駆け巡った。動悸が激しくなり、息が詰まる。けれど次の瞬間には彼女は別の方向へと手を振りながら歩いて行き、見えなくなってしまった。


(……今のは……? どういうことだ?)


思考が追いつかないまま固まっていると、ふいに肩をポンと叩かれる。振り返ると先ほどの男子学生グループの一人がニヤリと笑っていた。


「お前……もしかして、可奈ちゃんにロックオンされちゃった?」

「いやいやいや、そんなことあるわけないだろ!」

「でもさっき可奈ちゃんこっち見ながら微笑んだよな?」


周りのメンバーもくすくす笑っている。どうやら彼らも同じように感じていたらしい。


(そ、そうなんだ……でも偶然だろ……きっと)


それでも妙な高揚感は収まらない。店内イベントが終わり、可奈ちゃんが退店するタイミングになっても、なぜか俺はその場に立ち尽くしていた。


◇◆◇◆◇◆


翌日から俺の生活は一変した──というわけではないが、明らかに可奈ちゃんに関する情報ばかり探してしまう自分がいる。


Twitterを開けば、彼女の公式アカウントを探し。YouTubeでパフォーマンス動画を見て。音楽アプリでカラオケ練習しながら歌詞を覚え。そして毎晩ベッドに入ったあとも、どうしても脳裏を過るのは昨日の出来事だった。


(なぜ俺を見て笑ったんだろう……単なるファンサービスだったのか? それとも……)


考えても答えが出ない。かといって直接聞く勇気もない。悶々とした日々を過ごすこと数日──ついに重大発表の告知が飛び込んできた。


《シンデレラガールズ 全国ツアー決定! 各公演ごとにスペシャルゲストアイドルを招聘! 》


告知内容によれば、各地のホールやアリーナを巡りながら開催される大規模ツアー。しかもツアータイトルが「Dream Wave」なるもので、波打ち際や星空をイメージさせるロマンティックなデザインに仕上がっている。ファンにとっては垂涎ものの企画だ。


(これは行かないと……!)


しかし問題はチケット争奪戦だ。以前のカーテンコールフェスよりも倍率は上がると予測されている。当然ながら、今回は全国5都市を巡る形になるため、各都市での開催数も限られてしまう。さらに注目すべき点がもう一つあった。


《各公演日毎に“シークレットユニット”出演あり》


(シークレット……!? つまりサプライズ的な新ユニットが登場するということか……)


詳細は不明だが、ファンの間では様々な憶測が飛び交い始めていた。「過去に解散した幻のユニットが復活する説」や「新メンバーによる極秘ユニット説」など様々だ。正直どれも当たっている可能性はある。


「とりあえず応募するしかないよな……」

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